ブリッジルーツの日本・中国・韓国見聞録

弁護士法人Bridge Rootsブリッジルーツ
弁護士 高橋 明日美

※本記事は亜州ビジネス2019年4月22日第2077号に掲載されたものです。

【第143回】 生涯弁護士の徒話「進行形の案件」


◇ 日々、企業法務をやっておりますと、いつも社長さんや法務担当者さんにお話しする「お決まりの話」というものが自然とできてくるものです。今日もそんな十八番のうちの1つを。

◇ 例えば、先日、クライアントである芯杯商事(シンパイショウジ/仮)株式会社さんからこんな相談がありました。「我が社の従業員である剣城蟻夫(ケンギ・アリオ/仮)という者が数か月に渡って会社の金を横領していた可能性があることが発覚しました。この剣城という男、以前にも一度、家電量販店での万引きで逮捕されたことがあるようです。我が社は信用第一がモットーですし、このような男をこれ以上雇っておくことは百害あって一利なしであることが明白ですので、この度、解雇することに決めました。ただ、一説によると解雇は離婚より難しいとか何とか。そこで、先生にも一緒に剣城の解雇の手続きにご参加いただいて、そこらへんもぬかりなく進めていただけないでしょうか。」とのご相談です。

◇ 企業法務に限らず弁護士が取り扱うにおいては、その業務の性質に応じて大きく2種類に分けられます(厳密には中間的な案件も少なくないですが)。「過去の出来事の真偽や評価を争う案件」と「そうした将来の争いの発生に備えて、現に必要な法的対応等を行う案件」の2つです。
 前者の典型例は民事訴訟(裁判)です。民事訴訟では、既に起きてしまった過去の出来事について、当事者双方が異なる事実関係や法的評価を主張し合い、それぞれが証拠や証言、あるいは法律論争等を根拠として自己の正当性をアピールします。そして、後者の典型例は上記の相談のような案件です。将来、仮に民事訴訟などが勃発した場合に勝利できるように、今、まさに刻々と進行していく案件において、法律に則った適切な対応を実行していきます。

◇ 一般に、弁護士が得意とするのは前者のほうです。前者の案件においては、「既に起きてしまっている過去の出来後について、事後的にアレやコレやと批判やら文句やらを(第三者的に)好きなように言ってればOK!」という側面があるため、ある意味で高みの見物ができるわけです。ですが、後から見たら結果的に「こうしとけば良かったのに~」みたいなことも分かりますが、実際に当時にその場で対応していた当事者(依頼者)の立場からすれば、「そんなの当時は予想できなかったし、その場その場の限られた時間や機会の中でミスのない対応なんてムリ!」って怒りたくなりますよね?

◇ 実は、まったく同じ理由で、弁護士にとっても後者の案件はできれば避けて通りたいものなんです。日頃、偉そうに法律論を語っている弁護士ですが(!?)、実際に、今、まさに目の前で刻々と進んでいる出来事の中で、必ずしも予想できない将来と限られた時間という制約下において、法的な誤りや失敗をしてしまうことなくカンペキな対応を行うことは非常に難しいのが実情です。そのため、当職も、仲間内の弁護士の間では、後者のような案件のことを「進行形の案件」と呼んで忌み嫌っております(笑)。弁護士は、事後的に高みの見物で批判・検証することが得意な分だけ、逆に、後日、自分自身がそういった批判や検証の対象となるような事態は非常に嫌がるんです。クライアントからは、「今、まさに進んでいる案件の対応を△△△弁護士にお願いしようとしたら、『ウチはそういう案件は対応してない』って断られました」といった話を聞くことも少なくありません。

◇ 当職は、芯杯商事さんに助言しました。「従業員の解雇手続きの対応という、まさに進行形の案件ですね。ざ~っとおうかがいしている限り、芯杯商事さんの言い分にも納得できるところがありますし、もちろんこういった進行形の案件も弁護士の重要な役割だと考えますので、対応はさせていただきますよ!ただ、“まず解雇ありき”という状況は危険です。これから当職も調査や事情聴取等に実際に参加させていただいて、本当に解雇が適切かどうかをしっかりと見極めさせていただきます。その上で、やはり解雇が適切だと考えられる場合には、法律や過去の裁判例等も踏まえて、しっかりとした手続きで進めていきましょう!」
じゃ、今日はこれで。