ブリッジルーツの日本・中国・韓国見聞録

弁護士法人Bridge Rootsブリッジルーツ
弁護士 小田 誠

※本記事は亜州ビジネス2019年4月1日第2062号に掲載されたものです。

【第142回】 生涯弁護士の徒話「文書の意義」


◇ 日々、企業法務をやっておりますと、いつも社長さんや法務担当者さんにお話しする「お決まりの話」というものが自然とできてくるものです。今日もそんな十八番のうちの1つを。

◇ 例えば、先日、クライアントである株式会社舌対許三(ゼツタイユルサン/仮)さんからこんな相談がありました。「センセー、先日、我が社は、株式会社普成実(フセイジツ/仮)からある土地を購入してマンションを建てようとしたんですが、いざ土地を掘ってみるとたくさん産業廃棄物がでてきちゃったんですよ!もちろん産廃があるなんて相手から聞いてませんでしたから、撤去費用を請求したいんです。ていうか、一番の問題は相手の対応っすよ!産廃が出てきたのに相手は知らぬ存ぜぬで、謝罪の一つもないんです。もう頭に来ちゃって。お金取るついでに相手に謝罪もさせたいんですよ。それで、内容証明を送ろうと思うんですけど弁護士の名前で出した方が相手もビビると思うんで、内容証明の文案を書いてきたんで先生の名前で出してもらえませんか?頭に来てるんで多少過激な文章になってますけど、マジでガツンとやってやりたいんすよ~!」とのご相談です。

◇ 弁護士をやっていますとクライアントから本当に様々な内容のご相談を頂戴しますが、今回の舌対許三さんのように、とりあえず内容証明を送り付けて相手を威嚇したいといったご相談も少なくありません。
 ただ、文書を相手に送る際には必ず何かしらの目的があるはずであり、文書の内容はその目的を実現するためのものでなければなりません。そのような内容が明確に読み取れない文書というのは、受け取った相手に意図が伝わらず「はぁ?だから何?」と思われてしまうだけです。他方で、「ただ相手を威圧し、嫌がらせをするだけ」という目的の文書を送ることは、後に裁判等となった際には裁判所から非常に印象が悪いですし(後日、裁判となった場合には、こちらが送った文書は全て法廷の場で裁判官の目にするところとなると思っておくべきです)、場合によっては脅迫罪や恐喝罪、侮辱罪等の刑法犯に問われることになりかねません。
 したがって、通常、文書を送る目的は、①相手方に何かを要求するか(法的な請求)、②何らかの意思・事実・意見を伝えるか(例:契約解除の意思表示、質問への回答、和解に対する当方の意見等)、のいずれかであることがほとんどとなります。

◇ そして、今回のご相談(産廃処理費用の支払いと謝罪を求める)のように①相手方に何かを要求したい場合には、人は法的根拠がなければ他人に何かを強制されることはないため、必ず法的な根拠(法律の条項や契約書の合意事項等)が必要です。法的な根拠のない要求・請求の文書を送り付けたところで、相手は「だからなんなの?」としか思いません。それどころか、法的な根拠のない無茶苦茶な請求を行ってきた!と非難され、場合によっては不当請求等を理由にカウンターの損害賠償請求なんかが来てしまうこともあり得るんです。そして、法律の専門家たる弁護士は、他の方々以上に高度の「法的根拠のない請求を行ってはならない」という責務が与えられているため、なおさらしっかりとした法的根拠を必要とすることになります。

◇ 当職は、舌対許三さんに助言しました。「お気持ちはよくわかりますが、威嚇や威圧を目的とする文書は、仮に後日、裁判に発展した場合に裁判官からの印象が悪いどころか、場合によってはカウンター(刑事告訴・不当請求に対する損害賠償請求等)を喰らうことになりかねません。弁護士たる当職の名義で発出するのであれば、なおさらです。今回は、つまるところ、損害賠償と謝罪を求めたいというご希望だと拝察いたしますが、前者については、いわゆる“瑕疵担保責任”等によって根拠付けられそうです。ですが、後者はちょっと考えないといけません。謝罪をしないことは倫理的には問題があるかもしれませんが、今回のような事案で謝罪を強制することの法的根拠にはなかなか難しい部分があります。今回の内容証明の中心的な目的はあくまでも法的根拠が明確な損害賠償請求としておき、謝罪の点については、示談・和解の提案(『謝罪するなら損害賠償の減額や分割払いを認める』といった条件提示)として言及しておきましょうか。社長にもご納得いただけるような、しっかりとした文書を組み上げさせていただけるよう頑張りますね!」
じゃ、今日はこれで。