ブリッジルーツの日本・中国・韓国見聞録

【第141回】中国「新個人所得税法」の解説(2)

弁護士法人BridgeRootsブリッジルーツ
代表弁護士 橋本 吉文
(執筆協力 郝 月)

※本記事は亜州ビジネスCHINA2019年3 月11 日第2048号に掲載されたものです。

 前回の「解説(1)」において、中国「新個人所得税法」に係る課税対象の明確化及び課税優遇制度の改正について解説しましたが、今回では、引き続き新しい税率及び外国人特別控除項目に対する法改正について簡単に解説します。

一、 個人所得税課税の新しい税率
 中国の物価や国民の収入の変化に伴って、2018年10月1日から、個人所得税課税の非課税金額が変わりました。総合所得の税率は、改正前と同じく7段階に分かれていますが、個人所得税課税の非課税金額は改正前の月収3,500元(約57,000円)から5,000元(約81,000円)に引き上げられました。詳しくは下記の累進税率表をご参照ください。

等級

旧版

新版

税率(%)

1,500元以下

3,000元以下

1,500超4,500以下

3,000超12,000以下

10

4,500超9,000以下

12,000超25,000以下

20

9,000超35,000以下

25,000超35,000以下

25

35,000超55,000以下

35,000超55,000以下

30

55,000超80,000以下

55,000超80,000以下

35

80,000超

80,000超

45


 「中等以下の所得者層の税収負担を合理的に下げ、より良い個人所得税の収入分布の作用が発揮できるように」との指導理念のもの、中、低所得者層には減税、高収入者層には増税する傾向になりました。

二、外国人特別控除項目
 従来、中国の税法では外国人に対して特別控除項目を用いていました。すなわち、中国に住んでいる外国人は通達により特別に住宅手当、食事手当、クリーニング手当、引越手当、帰国手当、語学研修手当、子女教育手当が免税となっていました。今回の「控除方法意見稿」により、従来の法律に定められた課税の特別控除項目に加え、月5,000元基礎控除の他、三険一金(養老保険、医療保険、失業保険、住宅積立金)等の特別控除項目は維持しながら、更に子女教育費、継続教育費、高額医療費、住宅ローン利息や住宅賃料といった生活に密接に関連する支出が新たに控除項目として新設されました。外国人は新控除項目を選択してもよいし、現行の外国人特別控除項目も選択できます。ただし、同じ控除項目の内容を同時に享受することはできません。控除項目及びその対応関係については、以下の表をご参照ください;

外国人特別控除項目

新控除項目

対応関係

住宅手当

住宅賃料

外国人は新控除項目を選択してもよいし、現行の外国人特別控除項目も選択できる。ただし、同じ項目内容を同時に享受することはできない。

住宅ローン利息

子女教育手当

子女教育費

語学研修手当

継続教育費

 -

高額医療費

外国人は納税居民になっても、享受できない

 -

扶養年上控除

クリーニング手当

 -

条文上保留するそうだが、今後の政策を確認する必要がある。

帰国手当

 -

食事手当

 -

引越手当

 -


 もっとも、新控除項目の上限が外国人特別控除項目よりずっと低いので、外国人は現行の特別控除項目を選択したほうが間違いなくお得です。しかし、2018年12月27日中国財政部及び国家税務総局に公布された「改正された個人所得税法に係る優遇政策の接続問題についての通達」により、前述の外国人特別控除項目は2021年末までを期限として認められます。つまり、2022年1月1日から、外国人は住宅手当、語学研修手当、子女教育手当の控除項目を享受できなくなることが予想されます。通常は、外国籍の従業員の家賃や子女教育費用は比較的に高いので、この改正は中国で働いている外国人及び外資企業に対して深刻な影響を与えるかもしれません。これをもって、外国籍の従業員の税金負担が増加するので、従来の報酬及び福利厚生のままですと、実質的な収入は下がることになります。したがって、人材の吸引力を保持するため、中国での外資企業、特に外国籍の従業員がたくさんいる多国籍企業には、予め従業員の報酬・福利厚生を引き上げることも検討すべきでしょう。
以上