ブリッジルーツの日本・中国・韓国見聞録

【第137回】中国「新個人所得税法」の解説(1)

弁護士法人BridgeRootsブリッジルーツ
代表弁護士 橋本 吉文
(執筆協力 郝 月)

※本記事は亜州ビジネス2018 年12 月10 日第1992号に掲載されたものです。

 2018年8月31日、中国の第十三期全国人民代表大会常務委員会第五回会議において、≪全国人民代表大会常務委員会〈中華人民共和国個人所得税法〉の改正に係る決定≫(以下、「新個税法」という)が可決されました。また、この新個税法の実行性を確保するために、同年10月20日、国家税務総局は≪中華人民共和国個人所得税法実施条例(修正草案意見募集稿)≫(以下、「実施条例意見稿」という)を公布する予定です。これと同時に、新しい≪個人所得税控除方法(意見募集稿)≫(以下、「控除方法意見稿」という)が公布され、11月4日までの意見募集期間内に、意見募集稿に対し異議がなければ、2019年年始から有効になることが予想されます。本稿及び次稿では、今回の法改正が海外企業、外国人に対して如何なる影響を与えるのかについて簡単に解説します。

一、 課税対象に関する法改正
1.課税対象の明確化

 旧個人所得税法第一条により、中国国内に住所を有し、又は中国国内で一年以上居住した個人は、中国国内及び国外の両方における所得に対し課税されます。もっとも、国際慣例及び中国と複数の国(日本を含む)との間で締結した租税条約により、条約締結国の企業及び個人については、課税対象を判断する基準である中国国内の居住期間は一年ではなく、183日です。実際、実務上も「183日」を基準として課税するか否かを判断していました。今回の「新個税法」では、法律の定めと条約・実務の齟齬を整理するために、居住者(中国国内に住所がある、或いは住所がないが、一つの納税年度内、中国国内に183日以上居住する個人)及び非居住者の概念が導入され、法律上で課税対象を判断する基準である居住期間を「183日」と明確にしました。

2.課税優遇制度の改正

 「新個税法」の改正に伴い、いわゆる外国人に適用される「五年課税優遇」制度 も、「実施条例」に対する修正により改正される見込みです。「外国人の五年課税優遇」制度の対象は、中国に連続で「1年以上5年以下居住した外国人」から「183日以上5年以下居住した外国人」に拡大される予定です。

 また、旧実施条例により、一つの納税年度において、①1回で連続30日間以上中国から出国する場合、及び、②連続せずに合計90日間以上出国する場合、次年度から中国における連続の居住期間は再度「0」から計算されます。例えば、中国で3年間居住した際、上記①又は②の状況がある場合、次の納税年度から、中国での連続居住期間は4年間ではなく再度「0」から計算されます。これによって、「五年課税優遇」を長く享受できます。しかし、「実施条例意見稿」により、当該「五年課税優遇」制度自体は保留されましたが、「5年間」に対する計算方法等については、下記のように改正される予定です。

  •  「5年間」を計算する際、上記①の「連続30日間以上出国」の例外規定は保留される予定ですが、②の「90日間以上出国」の例外規定は削除される予定です。一つの納税年度に連続せずに合計90日間出国しても、居住期間は新たに計算されません。
  •  上記①の「30日間以上出国」については、一つの納税年度に限らず、二つの納税年度にまたがる連続30日間でも認められる予定です。例えば、2018年年末から2019年年始までの間、連続30日間出国する場合、次の納税年度から、中国での連続居住期間は「0」から計算することができます。
  •  旧法では、「五年課税優遇」制度の適用を希望する場合、税務局の許可が必要ですが、新法では、「事前許可制」から「事後届出制」へ変更する予定です。

番号 居住期間 中国国内からの所得中国国外からの所得
中国国内機関等により支払われるもの中国国外機関等により支払われるもの
1183日未満課税免税免税
2183日以上5年未満課税課税免税
35年以上 (※但し、5年間以内、連続30日間以上中国から出国したことがあり、居住期間を新たに計算する場合は、上記2の規定を適用することができる) 課税課税課税

 法改正後の課税対象については上記の表をご参照ください。
 次回は、外国人特別控除項目に対する法改正について解説します。
以上
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1 旧個税法により、中国で1年以上居住した外国人は、外国の所得についても中国で納税する必要がありますが、中国に住所を有せずに、1年以上5年以下居住する外国人は、税務局の許可を得た上で、中国国外における所得の中で、国外機関により支払われる部分について免税されるという優遇制度です。

※ 本稿は、あくまでも一般的な法解釈の動向のご説明にとどまるものですので、いかなる意味においても、法的見解を表明し、あるいは法的助言や鑑定等のサービスをご提供するものではありません。