ブリッジルーツの日本・中国・韓国見聞録

著:秋山理恵(弁護士)

【第135回】「転ばぬ先の労働法」 

※本記事は亜州ビジネス2018年10月29日第1963号に掲載されたものです。

―第24回:定年後8年契約更新した運転手らに対する雇止めの有効性 (東京地裁平成28年8月9日決定)ー

1 事案(わかりやすくするため、事案を簡略化しています)
 Xは、タクシー業を営むY社と有期雇用契約を締結したタクシー運転手であり、Y社の従業員で構成されている労働組合の組合員である。Xは、平成17年5月以降、Y社の前身である会社でタクシー運転手として勤務し、平成20年3月15日に60歳で定年退職となったが、その後同月16日から平成28年3月17日まで、Y社との間で期間を1年ないし半年とする有期雇用契約を締結、更新していた。
 他方で、Xは、平成28年1月12日、Y社に対し、残業代の支払を求める訴訟を提起した。
 すると、Y社は、平成28年2月1日付で、Xは、①営業成績が悪く,②平成25年5月から平成28年1月までの間に5回もの交通違反を犯していること、③XがY社を相手に残業代支払請求訴訟を提起したことは,重大な契約の不更新事由に当たり、雇止めには合理的理由がある等として、Xの雇用契約は期間満了にて終了し、更新しないと通知した。
 そこで、Xは、Y社による労働契約の更新拒絶は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当ではなく、労働契約法19条に違反すると主張し、Y社に対し、地位保全と賃金の仮払いを求めた。


2 裁判所の判断
  1.  営業成績の不良については,そもそもY社が根拠とする数字自体,裏付けとなる客観的資料を欠き,直ちに信用できるものとはいい難い上,仮に当該数字を前提としても,Xの営業成績の低さについて,Y社がXに対し営業成績の改善のための具体的な指導をしたことを疎明する的確な証拠は存在しない。また,Xの平成27年3月からの雇用契約における労働条件は,フルタイムではなく短時間勤務(週30時間未満)であるから,週40時間勤務を基本とするフルタイムの乗務員と比較して営業売上が低くなるのはいわば当然である。以上に加え,Xについて平成20年3月以来少なくとも7回にわたり契約が更新されてきたことを踏まえると,Y社の主張する営業成績の不良は,契約の更新を拒絶する合理的理由には当たらない。
  2.  交通違反についてみると,Xは,平成25年5月13日に指定場所一時不停止等,平成26年9月26日及び平成27年11月28日に通行帯違反(通行帯),平成27年10月4日及び平成28年1月18日に信号無視(赤色等)の各交通違反をした事実が認められる。これらの交通違反自体は,旅客運送に携わるタクシー乗務員として決して褒められた運転態度とはいえない。しかしながら,①その頻度は年1回ないし2回程度であること,②上記の交通違反はいずれも比較的軽微な違反であり,雇用契約書に記載された不更新事由(交通違反により運転免許取消処分ないし運転免許停止となった場合)にも該当しないこと,③上記交通違反が存在したにもかかわらず,平成26年3月及び平成27年3月には債務者との間で雇用契約が更新されていることなどに鑑みると,当該交通違反を理由に契約更新を拒絶することは,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない。
  3.  使用者たる会社に雇用されている従業員が,残業代の支払を求めて当該会社に対して民事訴訟を提起することは,それが一見して正当な権利を有しないことが明白であるような特段の事情のある場合を除き,労働基準法上の正当な権利行使というべきであるところ,本件においてかかる特段の事情を認めるに足る疎明はないから,Xが別件訴訟を提起したことをもって有期労働契約の更新を拒絶する合理的な理由に当たらないことは明らかである。
 
3 ポイント
 本件では、残業代の支払を求めて当該会社に対して民事訴訟を提起したことを理由に、有期雇用契約の更新を拒絶することはできない旨を判断しています。また、営業成績が悪いこと、また交通違反を犯していること等、一見すると合理的な理由と思われるものであっても、本当に合理的な理由であるか否か、これまでの経緯も含めて詳細に認定しています。


4 転ばぬ先のチエ
 会社経営者としては、会社に不満があり、会社に訴訟を提起しておきながら、他方で有期雇用契約は継続せよと求めるなどとケシカラン!という考えに至ることがあるかもしれません。しかし、裁判所も明言しているとおり、労働基準法上の正当な権利行使を理由に雇用契約を終了させることはできません。利益の追求という目的だけでなく、労働関係法令の遵守という面も考慮しながら、適正な会社経営を行っていく必要があります。

以 上