ブリッジルーツの日本・中国・韓国見聞録

弁護士法人Bridge Rootsブリッジルーツ
弁護士 神山 優一

※本記事は亜州ビジネス2018年7月17日第1895号に掲載されたものです。

【第130回】 生涯弁護士の徒話「交渉に強い弁護士?」


◇ 長年、企業法務をやっておりますと、いつも社長さんや法務担当者さんにお話しする「お決まりの話」というものが自然とできてくるものです。今日もそんな十八番のうちの1つを。

◇ 例えば、先日、クライアントである株式会社COOL歩行(クールホコウ/仮)さんからこんな相談がありました。「いや~、やっちまったですよ。ウチの社員がポカやらかしまして、取引先の西頭部デパート(ニシトウブデパート/仮)さんにおっきな納品ミスしたらしいんですよ。西頭部デパートさんは特別なイベントの日だったようで、結構な損害が発生したとか。ウチなんてちっぽけな会社なんで、ドカンと損害賠償請求なんてさせられたら到底持ち堪えられないですよ。何とかある程度のところで示談したいんだけど、弁護士先生の超会話術とスーパー交渉力なら何とかなりますですよね!」とのご相談です。

◇ 世の中の多くの映画やドラマの影響かもしれませんが、弁護士というのは何か物凄い交渉技術を持っていると期待されることが少なくありません。エ〇ィ・マー〇ィのようにスゴい早口で捲し立てて相手を翻弄するとか、ドスの利いた声で圧倒するとか、はたまた高僧のごとく魂に語りかけて納得させるとか・・・・。こういったスキルがある弁護士は「交渉に強い弁護士」とされ、それがない弁護士は「交渉がヘタクソな弁護士」とされるわけです。
 ですが、本当にそうでしょうか。一般に、企業同士の交渉においては交渉の現場で一気に最終的な合意締結まで行くほうが少なく、通常は会社に持ち帰って上司や社長、役員会、場合によっては顧問弁護士等による検討がなされ、決裁が得られることを要します。ですので、交渉の現場の流れや雰囲気がそのまま結果に直結することのほうが少なく、いいところ交渉担当者の心証に幾分の影響を与えられるかどうかにとどまります。相手が大企業であればあるほど、この傾向は強くなるでしょう。

◇ そればかりか、上記のような“曖昧なスキル”ばかりを頼りに交渉に臨んでしまうと、むしろ危険な場合が少なくありません。交渉というものは、本来的に「相手方が許容できる取引条件の範囲」と「当方が許容できる取引条件の範囲」に“重なり”があるかどうかの確認作業に尽きるべきなのであり、そうではない心理的・感情的な要素が大きな意味を持つような交渉は、単にどちらか(あるいは両方)が冷静さを欠いていたり、理解力・思考力が不足していたりするに過ぎません。交渉において重要なのは、①「相手方が許容できる範囲」と「当方が許容できる範囲」の重なりを見つけ出す分析的思考と、②これらが重なる範囲内においても「当方が許容できる範囲」をなるべく小さく開示する戦略的対応です。これらを交渉の現場で発揮するためには事前の準備と検討が重要となりますが、変に会話術やらカリスマ性などといった曖昧な要素ばかりに注目してしまうと、こうした準備や検討が疎かになってしまいます。

◇ 当職は、COOL歩行さんに助言しました。「確かに弁護士は、意見の対立が激しい交渉や紛争といった現場の経験が多く、変に舞い上がってしまったり、緊張して間違ってしまったりすることは少ないかもしれません。ですが、弁護士にドラマのような交渉を期待する前に、まずはしっかりと事案と状況を整理して『当方が許容できる条件の範囲』を検討することが先決です。その上で、相手方が許容できる範囲を予測し、当方からの条件提示の手法を検討してみましょう。真正面からだけでなく様々な角度から分析・検討してみると、意外と“落としどころ”や方向性が見えてくるものです。とはいえ、もちろん当職も交渉現場ではこれまでの経験と技術でベストを尽くした対応を行いますから、そちらのほうはちょっとした余興のような気持ちで見ていてくださいね(笑)」

じゃ、今日はこれで。