ブリッジルーツの日本・中国・韓国見聞録

弁護士法人Bridge Rootsブリッジルーツ
弁護士 神山 優一

※本記事は亜州ビジネス2018年5月28日第1860号に掲載されたものです。

【第127回】 生涯弁護士の徒話「納得できないことこそ宝物かも」


◇ 長年、企業法務をやっておりますと、いつも社長さんや法務担当者さんにお話しする「お決まりの話」というものが自然とできてくるものです。今日もそんな十八番のうちの1つを。

◇ 例えば、先日、クライアントである株式会社阿多摩内(アタマウチ/仮)さんからこんな相談がありました。「ウチの会社で新たに出願した特許技術がなかなかスゴくて、複数の企業にライセンスしてたんだけど、けっこう無断で使ってるヤカラも多くて。それで、当時の顧問弁護士である駒飼(コマカイ/仮)先生に、そのヤカラたちに対する特許侵害の損害賠償をバシバシ請求してくれ!ってお願いしたら、『御社が出願した時点で既にほかにも何社かが似たようなことをやっていたとすると慎重に検討する必要がある』とか何とか言って、出願当時の資料を見せろとか、弁理士とミーティングさせろとか、ひたすらワケの分からんめんどいことばっか言ってっから顧問契約を切って先生のとこにお願いしようと思ったわけ。OK?」とのご相談です。

◇ 知的財産法なんかは特殊な部分もあるのでなおさらですが、これに限らず法律問題・法律紛争には理解の難しい部分が沢山あります。そのため、弁護士は、単に(そこそこ)難しい司法試験を突破するだけでなく、その後も5年も10年もかけてボスや先輩から様々な弁護技術や知識の教えを受け、多くの経験を積み、法律問題に対する優れた対応を身に着けていきます。「優秀な弁護士であれば、そういった難しい内容を素人に分かりやすく説明できるはず!」という議論はそのとおりですが、他方で、長きに渡る努力と経験で身に着けてきた弁護技術や法的知見のすべてがそんなに簡単に素人の方に理解できるわけがありません。仮にそんなことが本当にできるのなら、弁護士の仕事などこの世に必要なくなってしまうでしょう。

◇ 若い弁護士にもけっこう多いのですが、「ボスや先輩の指示には従います。でも、自分が納得できないことには従えません。」と得意気に語る方がいらっしゃいます。ですが、当職としては、この考え方には「自分なら何だって理解できるはずだ」という傲慢さがあるだけでなく、それ以上の危険性があると感じています。つまり、「(ある程度の説明や議論で)納得できること = その人がその時点で既に概ね理解して身に着けていること = 別に上司や専門家に支援・教育してもらうほどでもないこと」であり、「納得できないこと = その人がまだまだ全然理解できていないこと = 上司や専門家だけが提示できる物事の高いレベルでの神髄」である、という可能性も十二分に存在するからです。「納得できないこと」には従わない。「納得できない助言」は聞き入れない。これでは本当に専門家だけが提供できる“物事の神髄”を享受する機会を根こそぎ切り捨てているようなものではないでしょうか。

◇ 当職は、阿多摩内さんに助言しました。「駒飼先生のおっしゃっていることには一定の理由があるように思います。下手に特許侵害の警告(難しいことはさておき、特許の登録に至っていないので警告となります)なんかをやったら、相手側からのカウンター(逆の損害賠償請求やら新規性がない旨の情報提供やら様々な対抗手段が考えられます)を誘発するだけでなく、最悪の場合には他社とのライセンス契約なんかにも重大な影響が出るリスクも否定できません。お聞きした事情の限り、(弁理士の先生の苦心により)御社の出願の範囲が非常に狭く限定的になっている可能性もあり得ますので、御社の特許が無事に成立してもそもそも特許侵害に当たらない可能性も十分にあり得ます。いずれにせよ知的財産法分野には独特で専門的な部分がありますので、当職がご依頼をいただく場合にも慎重な検討をさせていただくことになります。さておき、『意味が分からなくても弁護士の言うことなら何でも信じる』というのも問題でしょうし、世の中には本当に説明がヘタクソなだけのダメ弁護士もいるのでしょうけど、他方で、理解できないから、納得できないからといって次から次へと弁護士を変えて行くようでは、そもそも弁護士に相談する意味がないように感じます。結局は、専門的知識が少ないが故に(リスクも分からないまま)御社の言うことをそのままやってくれるだけの弁護士(そんな先生がいるのかどうかは知りませんが)にたどり着くだけではないでしょうか。まずは知的財産法の観点からの検討のほかビジネス上のリスク分散の対策等も含めて慎重に戦略を練って、一番効果的で総合的な対策を進めていきましょうか!」

じゃ、今日はこれで。