ブリッジルーツの日本・中国・韓国見聞録

著:秋山理恵(弁護士)

【第126回】「転ばぬ先の労働法」 

※本記事は亜州ビジネス2018年5月25日第1859号に掲載されたものです。

―第22回:保育園の運営方針を批判した従業員らに対する解雇が無効とされた事例(東京地裁平成28年7月1日判決)ー

1 事案
 Y社は、保育園の経営等を目的とした会社であり、保育所ちびっこランドA園、同B園を経営していた。X1X2とも保育所ちびっこランドA園にて、X1は保育士補助業務(保育士の資格を保有していなかった)、X2は保育士業務を行っていた。
 平成25年2月25日、Y社代表者が、X1を夜の酒席に誘ったところ、X1,X2を含む従業員4名が参加し、居酒屋において話し合いとなった。その際、Xら従業員が日頃感じている運営上の問題点について、Y社代表者に質問したところ、Y社代表者がXらを解雇する旨の発言をした。
 その後、3月18日に、Y社はX1X2に対し、3月31日付けで解雇することを予告する旨の解雇通知書および解雇理由証明書を交付した。解雇理由証明書には、解雇の理由が以下の通り述べられていた(以下は主なもの)。

X1

X2

①園長に対する暴言、暴行行為

①園長に対する不敬な態度

②園長ならびに特定の社員を強烈に非難し侮辱した事

②園長に無断で公文書(園長の品位を落とす文書)を親御さんに配布し、注意しても反省の色を見せなかった

③始末書の無視

③始末書の無視

④親御さんへの園長の悪口、吹聴、扇動行為

④注意をしても反省をするどころか園長を非難した事

⑤保育スタッフへの園長の悪口

⑤公費を使い自分達の印鑑を作る

⑥園長に無断で職場の放棄

⑥父母会において公の場で親御さんの悪口を言ったこと

⑦個人的な携帯電話の充電

⑦親御さんの前でお子様の悪口を行ったこと



2 裁判所の判断
 裁判所は、概要、
・YのXらに対する解雇の目的は、Y社代表者による園の運営方法に問題がある旨の意見を述べたX1に対する嫌悪にあったというべきであり、其の目的が不当であるから、社会通念上相当であるとは認められず、その余の点について判断するまでもなく無効である
と判断しました。
 

3 ポイント
 Y社は、上記のとおり、解雇事由を縷縷述べていますが、裁判所はこれについて1つ1つ検討した上で、結論として従業員として適格性を欠いていることを裏付けるに十分ではないと判断しています。なお、本事件は控訴され、控訴審で和解により終了しています。


4 転ばぬ先のチエ
 自ら会社を創設したような会社代表者の方々は、現在の繁栄を得るために、創業時代から様々な苦労を経たのであろうことは想像に難くないところです。そのため、後から加入した従業員から、自らの経営方針ややり方について意見をされること自体が、何もわかっていない従業員から意見をされなければいけないんだ、という思いを抱かれる方も少なくないのではないかと推察します。しかし、だからと言って、意見をした従業員を解雇することは、労働法上許されません。従業員から経営方針に意見をされたときは、従業員は少なくとも何かに不満を持っていることは間違いないものと思われますので、その不満の原因が何なのか(従業員が言葉として伝えている不満の原因が、本当の原因でない場合も少なくないように思われます)、分析してみることも一つの解決方法かもしれません。少なくとも、その従業員を解雇処分とする前に、顧問弁護士にご相談ください。
以 上