ブリッジルーツの日本・中国・韓国見聞録

弁護士法人Bridge Rootsブリッジルーツ
弁護士 神山 優一

※本記事は亜州ビジネス2018年4月16日第1833号に掲載されたものです。

【第124回】 生涯弁護士の徒話「契約書は現代の踏み絵」


◇ 長年、企業法務をやっておりますと、いつも社長さんや法務担当者さんにお話しする「お決まりの話」というものが自然とできてくるものです。今日もそんな十八番のうちの1つを。

◇ 例えば、先日、クライアントである株式会社地震GIRL(ジシンガール/仮)さんからこんな相談がありました。「この度、弊社は、今、流行の“白子でバスケ”という料理漫画について5年間のライセンス契約を結んで、たっくさん初期投資して大々的にキャラクターグッズを展開していくことになりましたんです。ただ、ライセンサーでいらっしゃる株式会社朽崎岳エンタテイメント(クチサキダケエンタテイメント/仮)さんのほうからは『ライセンス期間を1年間とする契約書になってますが、1年経ったら残りの4年も再契約しますので、何とかこの内容でお願いします』なんてお話で・・・。まぁ、約束してくださってるんだから契約書の記載は1年も5年も同じねって思いますんで、そのまま契約しちゃおうかと思って。だめかしら?」とのご相談です。

◇ 世の中には不思議なもので、「口頭では約束できるけど、それを書面で残すことはできない」という説明が結構あるようです。そのため、取引先からそうした説明を受けた会社さんから、「口頭での説明を録音しておいたほうがいいですよね?」とか「とりあえず、それっぽい内容の電子メールのやり取りがありますから、それを保存しておいたら大丈夫ですか?」といったご相談を受けることも少なくありません。

◇ ただ、録音や電子メールの保存はそのとおりなのですが、当職としては、本来の目的を見失ってしまっているように感じられてなりません。すなわち、本来の目的は(上記の事例で言えば)5年間、トラブルなくキャラクターグッズ・ビジネスを成功させることであって、決して、「トラブルが起きたときの反論の武器(録音やメール等)を持つこと」が目的なわけではないはずです。
 何故、口頭では約束できるのに、契約書や合意書として書面で残すことはできないのか?それは、ゴチャゴチャと色々な理由や理屈を述べてみたところで、結局は、「そもそもその内容を(正式に、すなわち法的効果のあるものとして)約束することができないから」にほかならないのではないでしょうか。そうだとすれば、仮に「トラブルの際にそれなりに戦える武器(証拠等)」を持っておいたとしても、少なくとも「トラブルが発生すること」自体は回避できませんし、さらに言えば、実際の訴訟においては、録音やメール等が残っているだけでは勝訴できない場合も少なくないのが実情です(むしろ、肌感覚では負ける場合のほうが多いように思います)。

◇ 当職は、地震GIRLさんに助言しました。「朽崎岳エンタテイメントさんのほうから色々な事情説明があるものと思いますが、本当に5年間のライセンスを約束するつもりなら、どんな理由があっても、それを文書(契約書)にできないというのはオカシイのです。『ちゃんと契約書で残せるかどうか』は、本当にそれを約束するつもりがあるかどうか、約束できるのかどうかを確認するための、言わば現代の“踏み絵”と言えるでしょう。文書で約束できないというのであれば、結局のところ、朽崎岳エンタテイメントさんは(少なくとも今の段階では)正式に5年間を約束できないからだと考えざるを得ませんので、トラブル発生のリスクは十分に想定しておく必要があります。最後は御社のビジネス判断となりますものの、まずは以上の点を十分に踏まえた上で、戦略的な対応を一緒に考えてみましょうか!」
じゃ、今日はこれで。