ブリッジルーツの日本・中国・韓国見聞録

弁護士法人Bridge Rootsブリッジルーツ
中国人弁護士 厳 逸文

※本記事は亜州ビジネス2018年3月5日第1804号に掲載されたものです。

【第122回】中国における個人情報保護法規制の動向


一、 GDPR施行による影響
 近年、個人データの漏洩及び濫用が頻発しているため、2016年5月、欧州連合は、個人データに対する保護を強化・統合するために、「EU 一般データ保護規則(General Data Protection Regulation:GDPR)」を公表しました。同規則は、2018年5月25日より施行される予定です。GDPRは、EU を含む欧州経済領域(EEA)域内で取得した個人データを取り扱うこと、及びそれをEEA 域外に移転することに対し制限を設けると同時に、同制限に違反した場合、高額な制裁金を課すことができると定められています。更に、EEA域外の事業者も同法の適用対象となりますので、EEAでビジネスを展開している外国企業又はEEA内の企業と取引がある事業者にも非常に大きな影響を与えるものです。
 GDPRの影響下、各国における個人データに関する法規制の見直しを迫られています。かかる状況は、個人情報に対する保護が非常に弱いと批判されている中国にとって大きな課題となっています。今回は、GDPR規制への対応策を検討している企業に対し、中国における個人情報に関する法規制及び法改正の動向を紹介します。


二、中国における個人情報に関する法規制
 中国において、包括的な個人情報保護法は存在せず、個人情報保護に関する法規制は、各法令、規則、省令及び地方規則等に散在しています。したがって、中国でビジネスを展開している外国企業は、適用法令を洗い出す作業のみでも大変苦労していると思われます。これら個人情報保護の法規制に関し、地方規則まで全てを列挙するのは不可能ですが、一部重要な法令、規則を次のとおり紹介します。

1. 法律
「刑法」第253条の1より、個人情報不法販売・提供等罪が定められています。同規定により、公民の個人情報を不法に他人に販売・提供する者又は個人情報を窃取した者に対し、罰金もしくは最長7年の懲役を科すことができます。また、2015年の第9回刑法改正により、上記規定の処罰対象は拡大され、かつ、刑罰は厳しくなりました。
「民法総則」第111条より、「自然人の個人情報は、法律による保護を受ける。いかなる組織及び個人も、他人の個人情報を入手する必要がある場合には、法により取得し、かつ、情報の安全を確保しなければならず、他人の個人情報を不法に収集、使用、加工又は伝送してはならず、他人の個人情報を不法に売買、提供又は公開してはならない」と定められています。同規定は、旧民法上では定められておらず、2017年10月1日に施行された「民法総則」より追加された条項です。これにより、個人情報は民法により保護されることになりました。
③ 「消費者権益保護法」第14条、第29条及び50条等より、事業者が消費者の個人情報を取り扱う際の法規制が定められています。上記規定は、2014年5月に施行された新しい「消費者権益保護法」により、初めて定められたものです。
④ 「インターネット安全法」は、2017年6月1日に施行された、インターネット運営者・重要情報インフラ運営者・インターネット製品およびサービス提供者等及び個人による個人情報の取り扱いを規制するものです。

2. 部門規章 1
「電気通信及びインターネット利用者の個人情報保護に関する規定」は、2013年9月1日に施行された電気通信・インターネットサービスの分野において、サービス提供者による利用者個人情報の収集と利用を規制するものです。
「就業服務及び就業管理規定」第13条には、使用者は従業員の個人情報について秘密保持義務を有し、従業員からの書面による同意がない限り、使用者は従業員の個人情報を公開してはならないと定められています。同規定は、2015年4月30日より施行されました。

3. ガイドライン
 2012年に施行された「情報セキュリティ技術―公的及び商業サービスのための情報システム内での個人情報保護ガイドライン」は、法的強制力がないものの、個人情報処理の原則や情報処理際の注意事項等を定められており、個人情報を処理する際に参考になると思われます。

4.国家標準
 2018年5月1日施行予定の「個人情報安全規範」は、事業者が個人情報を処理する際の初めての国家標準です。同標準は、個人情報の処理を適合化させる機能も期待されています。

三、終わりに
 上記のように、近年、中国は個人情報保護に関する規制を整備していますが、これらの規定は煩雑であり、不完全な部分もありますので、中国においてビジネスを展開する際には、個人情報保護に関する法律の適用に留意しなければなりません。

以 上
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1 国務院各部・委員会・中国人民銀行・審計署及び行政管理権限を有する直属機構が、法律及び国務院の行政法規・決定・命令に基づいて、その部門の権限範囲内で、法律又は国務院の行政法規・決定・命令事項を執行するために制定したものです。