ブリッジルーツの日本・中国・韓国見聞録

弁護士法人Bridge Rootsブリッジルーツ
弁護士 神山 優一

※本記事は亜州ビジネス2018年2月5日第1786号に掲載されたものです。

【第120回】 生涯弁護士の徒話「法律問題より事情の把握が難しい」


◇ 長年、企業法務をやっておりますと、いつも社長さんや法務担当者さんにお話しする「お決まりの話」というものが自然とできてくるものです。今日もそんな十八番のうちの1つを。

◇ 例えば、先日、クライアントである株式会社根津真ホールディングス(ネツシンホールディングス/仮)さんからこんな相談がありました。「当社の顧問弁護士である富津宇(フッツウ/仮)先生に、今回、業務委託契約に関連して発生したトラブルの処理を相談しているのですが、とにかくなかなか処理を進めてくれなくて、それどころか何度も同じことを質問してきたりするんです。当社の担当者のほうで全部の経緯を説明した資料を準備して富津宇先生に渡してあるんですが、そこに書いてあることを重ねて聞いてきたりするので、『お渡しした資料を読んでから連絡してください!』と突っぱねています。こんな先生だと到底優秀とは思えませんし、もっと難しいはずの法律問題なんてなおさら分かるはずがないんじゃないかと非常に不安です。先生の事務所に顧問弁護士を変えたいと思いますが、よろしいでしょうか。」とのご相談です。

◇ クライアントには様々な方がいらっしゃいまして、とにかくいろいろな資料をご持参くださる方、思いのままにしゃべれるだけしゃべってくださる方、ミーティングでこちらからご質問差し上げるまでご自分からは何も語ってくださらない方等、まさに十人十色です。中でも、弁護士が最も対応に困ってしまうタイプの方の1つに「案件の経緯や詳細を長~い文章でまとめてくださったり、あるいは、ミーティングにおいて詳細に語っていただいたりした後、弁護士のほうから改めてご質問させていただくと、『渡した文章に書いてあるはずだ』とか『前に言ったのに同じことを聞かないで欲しい』などと怒ってしまうクライアント」があります。

◇ 実は、弁護士業務で最も大変で労力がかかる部分は、法律論でも判例調査でも文書作成でもなく、案件内容の整理・把握なのです。弁護士は法的分析作業は慣れたものですから、案件の内容さえしっかりと把握できてしまえば様々な戦略や対応を生み出すことができます。他方で、1人のクライアントの何年にも渡る人生や、1つの会社のビジネスの仕組・内容や、1つのプロジェクトの経緯・経過等を、法律紛争の本質に沿って整理して把握するためには、経緯が書かれた長い文章を読んだり、事実関係を一気に語っていただいたりしただけでは到底不可能です。考えてみてください。1つの出来事を読み手に理解してもらうために、プロの小説家がどれだけの修行と努力と枚数と度重なる校正をかけて1冊の本を書き上げているのか。そのような作業を経たわけでもない一方的な文章や説明を頂戴しても、それだけで事実関係を詳細に理解・整理した上でポイントを把握・記憶しておくことなど、経験豊富な弁護士でもまず不可能なのです。

◇ 弁護士は多数の案件を担当している中でも、個々のクライアントのために限られた時間で最大限の成果を生み出そうとします。それにもかかわらず、クライアントのご協力を得たり、コミュニケーションをとったりするのが困難な状況になってしまいますと、場合によっては、案件の詳細を整理・把握できずに本来の効果的な法的主張を見逃してしまう可能性さえ否定できません。熱心なクライアントほど「ここまでやって説明しているのに弁護士は何で理解してくれないんだ!真面目にやってるのか!?」とイライラしてしまう傾向があるように感じますが、どうか「現場にいたわけでもない人間に、事後的な話だけで物事を伝えることがどれほど難しいか」という点を忘れずに、最高の結果に向けて一緒にご協力いただけたらと思います。

◇ 当職は、根津真ホールディングスさんに助言しました。「経緯が複雑な案件等においては、ご自身が思っている以上に相手(弁護士)には内容が伝わらないものです。まずは落ち着いて、一番案件に詳しい富津宇先生の疑問点に冷静に回答してあげてください。それだけで、すんなりと案件処理が進んでいくこともありますから。とはいえ、大変失礼ながら、本当に能力の低い弁護士や該当する分野が不得意な弁護士もいないわけではないと思います。それでも案件処理が進まなかったり、満足できない弁護活動が続いたりするようでしたら、当職も全力で対応させていただきますので、遠慮せずお気軽にご相談くださいね!」

じゃ、今日はこれで。