ブリッジルーツの日本・中国・韓国見聞録

著:秋山理恵(弁護士)

【第117回】「転ばぬ先の労働法」 

※本記事は亜州ビジネス2017年12月25日第1760号に掲載されたものです。

―第20回:被害者の精神障害の発病及びその影響下における自殺につき、業務起因性を認めた事案(東京高裁平成28年9月1日判決)―


1 事案
 コンビニエンスストア店長であったA氏が、自殺した。親であるXは、加重な業務に従事したことで、精神障害を発病して自殺したものと考え、労災申請をしたが、行政庁はこれを認めなかった。そのため、Xは国に対し、処分の取り消しを求めて訴訟提起したところ、第一審は、Aの適応障害の発病は認めたが、自殺との因果関係(業務起因性)がないとの理由でXの請求を棄却した。そのためXは、Aが店舗の配置転換を含む店舗の業績、人事管理、人間関係等に悩み、長時間の時間外労働に連続して従事し、自らの限界を感じて自信を喪失し、次第に追い詰められた心境になり、睡眠障害や食欲不振等の症状が2週間以上の期間にわたって持続していたこと等を主張して控訴した。


2 裁判所の判断
  裁判所は,以下の理由等から,精神障害の発病には業務が関係しているとして、第一審の判断を取消、処分を取り消しました。
  1.  Aは中等症うつ病エピソードの診断基準に合致するから、精神障害を発病していた。
  2.  発病時期から6か月間の時間外労働は平均して70時間程度であるが、遡って6か月を超える時期には毎月概ね120時間を超え、時期によっては160時間を超える場合もあり、発病時期前の1年間の長時間労働は相当に過酷で、心理的負荷の程度は相当に強度であった。
  3.  20日間にわたる連続勤務を行っていた。
  4.  ノルマによる心理的負担も小さくなかった。

3 ポイント
 労災の認定の際に問題となる、「人の生命にかかわる事故への遭遇その他心理的に過度の負担を与える事象を伴う業務による精神及び行動の障害又はこれに付随する疾病」(労働基準法施行規則)に該当するか否かという基準については、精神障害を発病していること、発病前おおむね6か月間に業務による強い心理的負荷が認められること、業務以外の心理的負荷及び個体側要因により発病したとは認められないことを認定要件としています(「心理的負担による精神障害の認定基準について」)。本件も、この認定要件に従い、判断しています。


4 転ばぬ先のチエ
 A氏は、店長として、長時間労働、また連続勤務の中、売上、廃棄率、人件費の目標が定められ、その達成ができておらず、退職したい旨述べたものの、上司から年末年始の繁忙期に人件費の削減を求めるとの実現困難なメールを受信し、追い詰められていったとされています。メールは、時間を問わない点で優れていますが、一般的に事務的になりがちで、責められているように受け取ってしまう場合が少なくないように思います。働き方改革が叫ばれる中、どのような解決方法があるのか、大変難しい問題です。

以 上