ブリッジルーツの日本・中国・韓国見聞録

弁護士法人Bridge Rootsブリッジルーツ
中国人弁護士 厳 逸文

※本記事は亜州ビジネス2017年11月13日第1731号に掲載されたものです。

【第114回】中国における特別な強制執行の手段

第1 はじめに
 債権回収は、クロスボーダー取引に際し、事業者を悩ませる大きな問題です。以前、中国の事業者に対する債権回収に関し、訴訟を提起するまでの注意点を紹介しましたが、勝訴判決を取ったとしても、債務者が任意に債務を履行するとは限りません。そのため、そのような場合には、強制執行手続きを通じて債権回収を実現する必要があります。
 かつて、中国における強制執行に関し、日本の企業から以下のような相談を受けました。「中国のある企業に商品を販売したが、相手方が一向に支払いをしないので、中国で訴訟を提起し勝訴判決を得たものの、相手方は判決を履行せず、代表者も行方不明になった。銀行口座を差し押さえても口座にはわずかな残額しかなく、他に強制執行のできる財産がない。どうすれば良いだろうか。」
 確かに、不動産や預金債権等財産を差し押さえることは一般的な強制執行の方法です。しかし、債務者が財産を隠匿する等すれば、強制執行可能な財産を発見することは困難です。この問題を解決するために、中国法上は、債務者に対し特別な強制執行の手段を講じることができる制度が用意されています。今回は、その中から、いくつかの顕著な効果がある手段を紹介します。


第2 中国法における強制執行
1. 高額消費の制限 ~債務者の経済活動に対する制約~
 「最高裁判所による被執行者の高額消費の制限及び関連の消費に関する若干規定」によれば、被執行者(債務者。なお、被執行者が法人である場合、その代表者を含む。)が執行通知書で指定されている期間に、発効した法律文書で確定された給付義務を履行しなかった場合、裁判所は消費制限措置を講じることができます。これにより、被執行者に対し、次のような高額消費及び生活又は業務に必要のない浪費や経済活動を制限することができます。
飛行機への搭乗、列車・船舶の高級シートの利用
スターランクホテルへの宿泊や社交クラブ、ゴルフ場等での消費
不動産の購入や住宅の新築、増築、高級な改装工事の実施
高級オフィスビル、ホテル等を賃借する業務
業務に必要のない自動車の購入
旅行、休暇
子供を費用の高い私立学校に就学させること
高額保険料の保険商品の購入等

2. ブラックリストへの記載と公表 ~信用事故情報の公表による制約~
 「信用喪失被執行者の名簿情報の公布に関する最高裁判所の若干規定」によれば、被執行者が履行能力を有しながら発効した法律文書に決められた義務を履行せず、かつ以下のいずれかに該当する場合、裁判所はそれを「ブラックリスト」と言われる「信用喪失被執行者の名簿」に記載のうえ、その名簿を公表することで、被執行者に対し信用罰を加えることができます。
(一)証拠偽造、暴力、威嚇などの方法で執行を妨害・拒否した場合。
(二)虚偽訴訟、虚偽仲裁又は財産の隠匿、移転などの方法で執行を回避した場合。
(三)財産報告制度に違反した場合。
(四)高額消費制限令に違反した場合。
(五)被執行者が正当な理由なく和解協議を履行・執行しなかった場合。
(六)履行能力を有しながら発効した法律文書に決められた義務を履行しないその他の場合。
 被執行者が個人である場合、その個人の情報(氏名、性別、年齢及び身分証明書番号)を、会社である場合、法人情報(法人名、法人番号)及びその法定代表者の氏名が公表されます。また、ブラックリストに掲載された個人又は会社の法定代表者に対し、高額消費制限も付けられ、また、被執行者は代表者として新しい会社を立ち上げることもできなくなります。

3. その他の制約
 上記の高額消費制限及び信用罰は最も効果がある強制執行の手段とは言えますが、その他に、裁判所は、被執行者に対し出国制限を付けることもできます。また、一部の裁判所は、現地の通信会社と提携し、強制執行の手段を検討・試行しています。例えば、ブラックリストに掲載された被執行人が自分の携帯で電話を掛ける際、受信者の携帯画面に、発信者がブラックリストに掲載されているという情報を自動的に表示します。

第3 終わりに
 私は、先ほど紹介した日本の企業に対して、上記の手段を紹介した後、この日本企業は消費制限とブラックリストへの記載・公表を求める申し立てを行いました。すると、相手方企業の代表者から、「商品代金を支払いたいので、ブラックリストから名前を消してほしい。」と連絡があり、無事に代金債権を回収することができました。
 債務者は上記のような制限措置が講じられた場合、生活や業務活動に大きな支障を生じることとなりますので、自主的に債務を履行するケースが少なくありません。中国における強制執行・債権回収でお困りの場合は、本稿にて紹介した手段を利用することについても、ご一考いただければ幸いです。

以 上