ブリッジルーツの日本・中国・韓国見聞録

弁護士法人Bridge Rootsブリッジルーツ
弁護士 神山 優一

※本記事は亜州ビジネス2017年8月21日第1675号に掲載されたものです。

【第108回】生涯弁護士の徒話「法律紛争は生鮮食品」


◇ 長年、企業法務をやっておりますと、いつも社長さんや法務担当者さんにお話しする「お決まりの話」というものが自然とできてくるものです。今日もそんな十八番のうちの1つを。

◇ 例えば、先日、クライアントである株式会社Non・Billy(ノン・ビリー/仮)さんからこんな相談がありました。「巷で人気のアイドルグループ“赤羽の48人”って知ってます?この度、そのうちの1人がデザインした高級食器を弊社で仕入れて、取引先の夢飯能商会(ムハンノウショウカイ/仮)に卸したんですが、実際に納品しようとしたら、突然に『そんなものは発注してないし、もちろん受け取るつもりもない』などと言って代金の支払いも拒否し始めたんです。その後は、弊社からいくら売買代金を請求しても完全に無視されているような状態です。ひょっとしたら、もっと安い仕入先を見つけたんじゃないかと勘ぐってますが、約束どおりにちゃんと買い取ってもらえないと困りますので、売買代金請求の訴訟提起をお願いします!」とのご相談です。

◇ 本件において売買契約に基づく代金請求を行う場合には、代金を受け取る以上、商品(高級食器)を引き渡す必要があります。そのため、夢飯能商会に引き渡すために商品を保持しておかなくてはなりません。
 しかしながら、他方で、仮に後日の裁判で売買契約の成立を否定されたりして代金請求が認められなかった場合には、代金を貰えないまま商品だけが手元に残ってしまいます。それでもその商品が他の第三者に適切に売却できればよいのですが、時期や流行等が重要なものであったり、賞味期限が短いものだったりすると、裁判で結論が出た頃には普通には売れない商品になってしまっている(=商品価値が減少している)ことも少なくありません。それだけでなく、紛争における交渉や裁判等には非常に長い年月がかかることも多く(数年以上かかることも決して珍しくありません)、商品の保管代等が巨額に膨らんでしまうこともあります。

◇ このように、法律紛争においては、「売買契約が成立したかどうか」といった本筋の勝負のほかに、「単純な時間の経過によって発生し、増大し続けるリスク」という別次元の問題が常に付き纏います。時間の経過によって発生・増大するリスクには様々なものがありますので、紛争の初期においてこれらを洗い出すことが重要でしょう。場合によっては、時間経過により生じるリスクのほうが本筋の勝負よりも大きな問題に発展してしまうことも少なくありません。このように、法律紛争とは、時間の経過によるリスクと切っても切り離せない、いわば“傷みの早い生鮮食品”のようなものなのです。

◇ 当職は、Non・Billyさんに助言しました。「人気アイドルグループの関連商品であるということで、裁判等で長期間を要してしまった場合の商品価値の低下等が気になりますね。そのほかにも、紛争解決までの時間の経過によって発生・増大する可能性のあるリスクを一通り洗い出してみたほうがよいでしょう。場合によっては、商品価値がある今のうちに夢飯能商会側の債務不履行を理由として売買契約を解除した上で、商品を第三者に売却してしまって、『夢飯能商会の債務不履行により当方が被った損害』の賠償を求める訴訟を提起するといった対応も視野に入れておきますか。“勝負は時の運”とまでは言いませんが、法律紛争の勝敗については結局のところ裁判所の最終判断(判決)を得るまで分からないところがありますので、①敗訴の場合のリスクヘッジや②和解交渉の武器となる事項の準備も含めて、戦略的な対応を検討していきましょう!」

じゃ、今日はこれで。