ブリッジルーツの日本・中国・韓国見聞録

弁護士法人Bridge Rootsブリッジルーツ
弁護士 神山 優一

※本記事は亜州ビジネス2017年6月26日第1637号に掲載されたものです。

【第104回】生涯弁護士の徒話「熱血サイドストーリー」


◇ 長年、企業法務をやっておりますと、いつも社長さんや法務担当者さんにお話しする「お決まりの話」というものが自然とできてくるものです。今日もそんな十八番のうちの1つを。

◇ 例えば、先日、クライアントである株式会社ZOO・RAIL(ズーレール/仮)さんからこんな相談がありました。「先日、我が社の工場の大型機械の修理を地元の武陽神機械工業(ブヨウジンキカイコウギョウ/仮)に依頼したのじゃが、あろうことか工場から機械を運び出す際に出入口付近に積んであった出荷前の商品にひっかけおって、商品が崩れて売り物にならん状況じゃよ。その場で武陽神機械工業の責任者を呼び出して説明させたら、『大変申し訳ございません。機械搬出のドライバーの運転操作ミスが原因です。ドライバーには厳しい処分を行うとともに、弊社役員会で誠実に対応を協議させていただきました上で、速やかにご報告させていただきます。』とのことだったのじゃが、数日後には『弊社のほうで、現場工場の出入口付近の安全性を事前に確認していなかったことが原因。調査にもう少し時間を頂戴したい。』との連絡が入り、その後は『自分は担当者ではないので分からない。』とかで何度もタライ回し。最後には『出入口付近の安全確認はZOO・RAILさんのほうで行っていただくという話だった。』という連絡と『積まれていた商品が勝手に倒れてきただけ。』という連絡が同時に入る始末じゃ!けしからん!このとおり、武陽神機械工業ってとこは言ってることがコロコロ変わって信用性など全くない会社じゃから、全額の賠償を得られるのは当然じゃろ?」とのご相談です。

◇ 民事上の法的請求には「要件」というものがあり、例えば、今回の事故のような場合の損害賠償請求のためには、(正確には修理契約への違反か不法行為かといった問題等もありますが、説明の便宜上、大雑把に言って)①注意義務の存在(=事前の安全確認義務や注意して運転する義務等)、②注意義務への違反、③損害の発生、④注意義務違反と損害との因果関係の4点を立証する必要があります。具体的な損害額の点を別としますと、本件で予想される争点は①注意義務の存否と③注意義務違反の有無と思われますが、いずれも「事故当時」の話であり、事故後の事情はあくまでも「事故当時の事実関係を推認するための間接的な事情」に過ぎません。ましてや、相手方の説明が二転三転するとか、不誠実だとか、タライ回しにされたとかいった事情は、多少の間接事情にはなり得ても、基本的にメインの事情にはなりません。

◇ 他方で、人間というものは、言うことが変わるとか、嘘とか、不誠実といったことに非常に強い抵抗や反感を感じる傾向があるようで、クライアントとミーティングしている時でも、ややもするとメインとなる事実関係よりも「その後の事情」や「その事件とは関係ない相手方の杜撰さ、悪質性、不誠実さ」といった“サイドストーリー”に時間をかけて熱く語ってくださる場面が少なくありません。
 とはいえ、裁判官も含めて法律家というものは、最初にメインとなる事実関係を十分に整理・把握・検証した上で、不足する部分をサイドストーリーから抽出していくという視点を持っていますので、本件であれば、まずは事故当時の事情や状況、経緯等をしっかりと確認していくことが最優先課題となります。

◇ 当職は、ZOO・RAILさんに助言しました。「事故後の事情や相手方の不合理な対応等も当方の主張を補強するものとしてピックアップしていきますので、まずは武陽神機械工業側が負っていたであろう注意義務の内容と注意義務違反の有無について、事故当日の状況をはじめ、修理依頼契約の内容や事前準備の経緯等も踏まえつつ検討していきましょう!契約書、機械搬出に関する当時のメールのやり取り、防犯カメラの映像など、客観的な資料を中心に、当方の主張の骨格を組み上げることが先決です。並行して損害額のほうも検討しておきましょうか。なお、適用し得る保険の調査、破損した商品の出荷先との関係、怪我をした従業員の有無など、第三者との関係や派生する問題等についても戦略的な検討をしておくことが必要です。目先の問題だけにとらわれず、広い視点で事件全体の解決を図っていきましょう。」

じゃ、今日はこれで。