ブリッジルーツの日本・中国・韓国見聞録

弁護士法人BridgeRootsブリッジルーツ
弁護士 姜 成賢


【第103回】韓国における保証人の保護

※本記事は亜州ビジネス2017年6月12日第1627号に掲載されたものです。

 2017年4月14日、債権法部分に関する民法改正案が衆議院で可決された。今後、参議院でも可決された場合には、約120年ぶりの改正となる。今回の民法改正案では、保証に関する部分も改正が行われるとされている。
 韓国においては、2008年9月22日に施行された「保証人の保護のための特別法」(2008年3月21日法律第8918号、2016年5月29日法律第14242号最終改正。以下、「特別法」。)によって、民法に対する特例を規定し、保証人の保護を図っている。
 本稿では、特別法を概説し、韓国における保証人の保護について紹介する。

 特別法は、何らの対価なく好意で結ばれた保証による保証人の経済的、精神的被害を防止し、金銭債務に対する合理的な保証契約の慣行を確立することにより、信用社会定着に貢献することを目的としている(特別法1条)。条文は1条から11条(ただし、3条、9条及び10条は削除。)の計8条により構成されている。
 特別法にいう「保証契約」とは、その形式や名称にかかわらず、債務者が債権者に対する金銭債務を履行しない場合に、保証人がその債務を履行することを内容とする債権者と保証人との間の契約をいう(特別法2条2項。特別法制定当時は、「保証の方式」という規定が存在したが(改正前特別法3条)、2015年2月3日改正により削除された。)。そして、「保証人」とは、韓国民法429条に規定する保証債務を負担する者で(特別法2条1号柱書)、同号イ~ヘにに定める場合を除いたものをいう。細かな解説は省略するが、特に注視すべきは、企業の代表者、役員、無限責任社員又は企業の経営を事実上支配する者が、その企業の債務に対し、保証債務を負担する場合は、同号ロに該当し、特別法の適用を受けないという点である。

 特別法における保護の内容は、主に①保証債務の最高額の書面による特定、②債務者の履行状況等に関する告知義務、③金融機関の保証契約における特則等である。そして、特別法に違反した約定で保証人に不利なものは、効力を有しない(特別法11条)。

 まず、保証契約を締結するときは、保証債務の最高額を書面で特定しなければならない(特別法4条本文)。保証は、根保証でも行うことができるが、この場合には保証する債務の最高額を書面にて特定しなければならず(特別法6条1項)、これを怠った根保証契約は、効力を持たない(同条2項)。

 債権者は、債務者が元本、利子その他の債務を一定期間履行しないとき、または債務者が履行期に履行することができないことが予め知ったときは、速やかに保証人にその事実を知らせなければならず(特別法5条1項、2項)、また保証人からの請求があるときは、債権者は、主債務の内容及びその履行の有無を保証人に教えなければならない(同条3項)。そして、債権者がこれらの義務に違反したときは、保証人は、それにより損害を被った限度で、債務を免れる(同条4項)。

 金融機関が債権者として保証契約を締結するときは、「信用情報の利用及び保護に関する法律」により、総合信用情報集中機関から提供を受けた債務者の債務関連信用情報を、債務者の同意を得た上で保証人に提示し、その書面に保証人の記名捺印又は署名を受けなければならない(特別法8条1項前段、同条2項)。これは、保証期間を更新したときも同様である(特別法8条1項後段)。
 金融機関が債務者の債務関連信用情報を保証人に提示しなかったときは、保証人は、金融機関に対し、保証契約締結当時における債務者の債務関連信用情報の提示を求めることができる(同条3項)。そして、金融機関がこのような債務者からの要求を受けた日から7日以内に同要求に応じなかったときは、保証人は、その事実を知った日から1か月以内に保証契約の解約を通告することができる。この場合において、金融機関が解約通告を受けた日から1か月が経過したときは、解約の効力が生じることとなる(同条4項)。

 このような特別法に加え、韓国では、一定の場合に個人事業主や法人に対する与信における連帯保証を原則として禁止するなどにより、保証制度による個人の被害の防止に努めている。今回の日本における民法改正も、保証人となる者の保護を図るものであると思われるが、韓国の上記法制度との違いにより、どのような差異が生じるのか、その差異を補うため、日韓両国でどのような制度が新たに導入されるのか、今後の動向も追っていきたい。
以 上