ブリッジルーツの日本・中国・韓国見聞録

弁護士法人Bridge Rootsブリッジルーツ
中国人弁護士 厳 逸文

※本記事は亜州ビジネス2017年5月29日第1617号に掲載されたものです。

【第102回】中国インターネットサービスの急速な発展

 近年、インターネットサービスは、驚くほどのスピードで中国人の生活に浸透し始めており、中国ビジネスを展開する際には、もはや看過することができないレベルに至っている。今回は、中国でのインターネットサービスの普及という点について、法律とは離れたトピックスではあるが、取り上げることにしたい。

1. 革新的な第三者決済サービス
 2003年、日本の楽天市場のような個人消費者間の電子商取引サイトである「淘宝」(Taobao)の第三者決済システムとして、アリババグループの「支付宝」(アリペイ)が発足した。当時の「支付宝」は、「ネット通販の決済手段」でしかなかった。しかし、3年程前から、中国のインスタントメッセンジャー大手であるテンセント(騰訊)社の「微信支付」(ウィーチャットペイメント)を始めとし、第三者決済サービスの使用範囲が、ネット通販から、小売店舗での決済にまで広がってきた。デパートやコンビニ等企業が経営する店舗のみならず、個人が経営するレストランや美容室に至るまで、「支付宝」及び「微信支付」が幅広く利用されている。
 現在ではさらにこのシステムが幅広く利用されるようになり、現金を持ち歩くことなく、「支付宝」や「微信支付」のアプリをインストールしたスマートフォンのみを持って外出し、そのスマートフォンだけで様々な支払いを済ませてしまう、ということが中国では当たり前のように行われている。
 また、「支付宝」及び「微信支付」は、第三者決済機能のみならず、①手数料無料での友人や知人への送金機能、②「支付宝」による高利息での預金機能(「余額宝」)をも備えており、これらの機能の利便性・革新性も相まって、中国における第三者決済サービスは急速に発展したのである。
 このような中国市場における変化は、中国ビジネスの展開にも非常に大きな影響を与えている。このような第三者決済サービスを導入することに対して、セキュリティや個人情報の保護等を重視する傾向にある日本、その他各国の企業は、慎重な態度を取っている。しかし、第三者決済サービスを導入しない場合、中国市場における競争力が低下することは避けられないように思われ、この観点からは、第三者決済サービスの導入は、中国でのビジネス展開を検討するにあたっては、避けることができない課題となったといえよう。

2. インターネットサービスの急速な発展
 「支付宝」や「微信支付」のような第三者決済サービスの発展を踏まえ、中国におけるインターネットサービスの急激な普及も注目されている。
 2016年度、アリババグループのネット通販の総取引額は3兆人民元(約51兆9千億円) ※1を突破し、2016年11月11日 ※2、同社のネット通販サイト「天猫」(Tmall)の1日の総取引額は1,207億人民元(約1兆8,882億円)※3 に達した。これらネット通販は、デパート等実店舗の市場シェアを奪い去るほどのスピードで発展している。
 また、インターネットサービスの普及は、ネット通販に限らず、カーシェアリング等オフライン事業の発展も促した。中国では、カーシェアシステムを運営する「滴滴」社は、Uberと合併し、カーシェアリングの利用率を急速に拡大させた。中国インターネット情報センターの情報によると、2017年1月時点、カーシェアシステムの利用者数は1.68億人に至り、2016年の利用者数より37.9%増加した。
 さらに、北京、上海や広州等の都市部では、「支付宝」及び「微信支付」を利用した「シェア自転車」サービスも、ニュースで取り上げられるほどの広がりを見せている。
 インターネットサービスの急速な発展は、中国人の生活習慣を大きく変えたといえる。そこで、中国ビジネスを成功させるためには、インターネットサービスの活用も、考慮すべき重要な要素であろう。

3. 期待される法整備
 時代の急速な変化に合わせて、それに伴った法律の整備を行うことが理想的であるが、法整備が遅れていることは否定できない事実である。近時の中国におけるインターネットサービスの急速な成長の裏側で、これに対応するための法整備が不十分であることが指摘されてきたが、これに対し、一定の法改正や法律の制定が行われた。例えば、2014年には、ネット通販を規制する「インターネット取引管理弁法」、2016年11月にはカーシェアリングを規制する「インターネットによるタクシー予約運営サービス管理暫定弁法」等が制定された。しかしながら、これらの法律は、インターネットサービスの急速な発展により、市場にもたらされた混乱を抑えなければならないという緊急のニーズに対処するために、制定されたものであるため、必ずしも万全の法整備がなされたとはいえない状況にある。中国でのビジネスに興味を持つ企業や個人が、安心してビジネスチャンスを活かすことができる法的環境を構築することが、引き続き期待される。
以 上


※12016年度のアリババグループ財務報告書
※2中国では、毎年11月11日は、「独身の日」と呼ばれ、中国国内のインターネット通販会社は、競ってセールを繰り広げている。
※3アリババグループホームページ