ブリッジルーツの日本・中国・韓国見聞録

弁護士法人Bridge Rootsブリッジルーツ
中国人弁護士 厳 逸文

※本記事は亜州ビジネス2017年4月3日第1580号に掲載されたものです。

【第98回】中国が「民法総則」を制定

 2017年3月15日に、中国の全国人民代表大会(日本の国会に相当)において、「中華人民共和国民法総則」(以下「民法総則」という)が採択された。2017年10月1日から、「民法総則」が施行される。
 現在に至るまで、中国では統一の民法典が制定されていない。実務上、1987年から施行された「民法通則」は、「民法総則」の機能を果たしており、「婚姻法」、「相続法」、「養子縁組法」、「担保法」、「契約法」、「物権法」、「不法行為法」等はそれぞれ民法典の各編として看做されるという法体制になっている。しかし、これら法律につき、内容の不完備、各法律の間に齟齬が生じていることや時代の変化より相応しくない内容が増えた等問題が顕在しつつある中、「民法典」の編纂が中国の法律発展の重要な課題になった。今回「民法総則」の制定は、中国の統一民法典を制定する計画の一環である。

一、 「民法通則」に対する改正点
 今回の「民法総則」の制定は、「民法通則」の規定を土台として改正するという方針で行われたが、「民法総則」が施行された後、統一の民法典が制定されるまでの間は、「民法通則」を依然として有効とする見込みである。「民法通則」及び「民法総則」の規定につき、矛盾が生じた場合、「新法は旧法を破る」の原則より、「民法総則」の規定を優先して適用する。

二、 「民法通則」に対する改正点
 「民法総則」を「民法通則」の規定と比較すると、胎児の利益保護の条項の追加、民事上の制限行為能力者の起算年齢を10歳から8歳まで下げること、被後見人範囲の拡大等改正点が挙げられるが、今回は、日本企業及びその管理者や従業員の中国における活動に対し影響を与える可能性がある改正点を中心として、解説する。

1.法人分類の改正
 「民法通則」において、法人は、企業法人、機関法人、事業組織法人及び社会団体法人の四種類に分類されているが、「民法総則」は、設立の目的から、法人を営利法人、非営利法人という二種類に分けている。営利法人は有限会社や株式会社等企業法人を含む。非営利法人は、事業組織法人、社会団体法人、基金会、社会服務機関等を含む。これ以外、特別法人という法人種類も定められているが、これは中国の独特な法人種類であると思われる。特別法人には、農村集団経済組織法人、都市及び農村の協力経済組織、居民委員会や村民委員会等基層の大衆的自治組織法人が含まれる。

2.民法上の権利範囲の拡充
(1)個人情報条項の追加
 「民法総則」は、個人情報に関する権利を民法上の権利として明記し、個人情報の保護について具体的な規定を設けた。
 この数年間で、中国において「微博(ウェイボー)」や「微信(ウィチャート)」等を代表とするSNSが非常に流行しており、不法な手段で他人の個人情報を収集、販売したり、或いは他者へ提供したりする等の行為も氾濫している。今回の個人情報に関する規定の追加から、これら行為による社会への危害拡大を防ぐ目的が窺える。

(2)無形財産保護に関する原則規定の追加
 「民法総則」は、データー、サイバーバーチャル財産の保護について原則的規定を設け、これら権利の保護に制度的発展の余地を残した。

(3) 知的財産権に関する一般規定の追加
 音楽・映画やドラマの海賊版又は商品の模倣品が氾濫している中国市場の実情を考慮すると、核心技術又は商品を中国市場に輸入することはリスクが高いと考えている外国投資者は少なくないと思われる。この現状を改善するために、近年、中国政府は知的財産権に関する制度の整備に力を入れている。そこで、今回の「民法総則」も、知的財産権の範囲を明確するために、知的財産権の種類を列挙する概括的な規定を追加した。

 上記(1)から(3)の改正は、現在の中国実情に合わせるために産まれた時代の産物とも言える。これらの規定は、民法総則において定めるのが適切であるか否か、どのように定めるか否かにつき、学界ではいまだに議論されているが、実務上、これらの改正より、少なくとも外国投資者の中国市場に対する信頼性の向上を期待することができるだろう。


3 消滅時効の改正
 消滅時効(中国においては、「訴訟時効」という。)は、従来の2年から3年へ延長した。また、「民法総則」において、「民法通則」における①身体に対する傷害についての損害賠償請求、 ②品質の規格に合わない商品を販売し、声明しなかった場合、 ③賃料の支払を遅延するかまたは拒否した場合及び ④保管の財物が遣失するかまたは毀損した場合の消滅時効は1年であるという規定は、削除された。この改正より、中国で活動する日本企業や個人の権利保護が従来よりも手厚くなった。しかし、日本の債権消滅時効は原則10年であることと比較すると、中国の時効期間にはなお短いとも言える。
以 上