ブリッジルーツの日本・中国・韓国見聞録

弁護士法人Bridge Rootsブリッジルーツ
弁護士 神山 優一

※本記事は亜州ビジネス2017年3月6日第1561号に掲載されたものです。

【第96回】生涯弁護士の徒話「裁判でカタを付ける」


◇ 長年、企業法務をやっておりますと、いつも社長さんや法務担当者さんにお話しする「お決まりの話」というものが自然とできてくるものです。今日はそんな十八番のうちの1つを。

◇ 例えば、先日、クライアントである尾床技建(オトコギケン/仮)さんからこんな相談がありました。「昨年、取引先の伊々輪経営企画(イイワケイエイキカク/仮)に新型の浄水器を卸したんじゃが、支払期限までに代金の3分の1も払ってこない。問い詰めてみると『資金繰りが厳しいので分割にしてほしい』というので仕方なく応じてやったら、昨日、突然、『この浄水器はよく売れるというから買ったのに全然売れないから、もうこれ以上、代金は支払わない』などと言って分割金の支払いまで止めてきたんじゃ。ワシもさすがに許せんので、裁判でカタを付けて必ず全額搾り取ってやる!」とのご相談です。

◇ よく「裁判で勝てば問題は何でも解決する」と考えていらっしゃるクライアント様がいらっしゃいますが、例えば、債権回収ひとつをとってみても、裁判(訴訟)で勝訴することは、必ずしもお金の支払いを受けられることに直結するわけではありません。判決で「被告は、原告に対し、金100万円を支払え。」等と認めてもらえた場合でも、国のほうで何から何まで手を焼いて強制的に相手から100万円を取って来てくれるわけではありませんし、判決を無視する相手を“しょっぴいて”くれたりするわけでもありません。上記の勝訴判決は、あくまでも「民事の強制執行」の申立てを行うための必要書類の1つになるだけであって、勝手にお金が入ってくるようなシステムではないのです(もちろん、判決が出ることによって任意にお金を払ってくれるようになる相手も少なくないですが)。

◇ 勝訴判決を得たにもかかわらず債務者が支払ってくれないような場合には、裁判所の民事強制執行の窓口に行って、確定判決等の必要書類とともに「強制執行の申立て」をしなければなりません。その際には、申立てにかかる手数料等を納付する必要がありますし、そもそもコチラ側で「強制執行を行うべき対象となる債務者の財産」を(少なくともある程度まで)特定する必要があります。「どんな財産がどこにあるのか全然分かりませんが、勝訴したので何とかしてください!」と言ってみたところで、裁判所は動いてくれないのです(なお、強制執行の申立てにかかる手数料等は、理屈の上では債務者から取り戻すことができることになっていますが、十分な財産のない債務者からは、実際上、取り戻すことが困難です)。結局、勝訴判決があっても財産のない債務者からは何も取れませんし、さらに言えば、債務者が巧妙に財産隠しをしてしまってその所在を把握できないような場合にも、実際上、債権回収は困難となってしまうわけです(債務者の財産の所在探索にはいくつか手がないわけではないですが、どれも効果は高くないように思います)。

◇ 当職は、尾床技建さんに助言しました。「弁護士は、最初にまず、相手(債務者)の財産や資力の有無を検討します。伊々輪経営企画のほうは、資金繰りの悪化で分割弁済をしていた挙句、ざっとおうかがいしている限りではありますが、『売れると思ったのに売れないから代金を支払わない』などという一方的な理屈で支払いを拒否しているような状況ですから、資金的に非常に苦しい状態にあるものと予想されます。費用や時間をかけて訴訟を提起したところで、仮に勝訴できても勝訴判決が単なる“紙切れ”になってしまう可能性も否定できませんので、ここは落ち着いて、まずは伊々輪経営企画の財務状況や財産の所在、他社との取引関係(売掛金の存在等)などを検討し、倒産に関連する法律問題等も総合的に考慮した上で、最良の選択肢を検討してみましょうか。」
じゃ、今日はこれで。