ブリッジルーツの日本・中国・韓国見聞録

弁護士法人Bridge Rootsブリッジルーツ
弁護士 神山 優一

※本記事は亜州ビジネス2017年1月10日第1523号に掲載されたものです。

【第92回】生涯弁護士の徒話「契約書の作成」


◇ 長年、企業法務をやっておりますと、いつも社長さんや法務担当者さんにお話しする「お決まりの話」というものが自然とできてくるものです。今日はそんな十八番のうちの1つを。

◇ 例えば、先日、当職のクライアントさんの愛米(アイマイ)総研さん(仮)からこんな相談がありました。「今度、株式会社不亜爺(フアジイ/仮)と新たにコンサルティング契約を締結することになったんで、契約書の作成をお願いします!」というご依頼です。当職のほうからは、「それでは、どのような業務をどのような方法で提供し、コンサル料の額や支払条件、知的財産の取扱いや守秘義務・・・等、どのような取引条件を予定されていらっしゃるのか、教えていただけますか?」とご質問差し上げることになるわけですが、愛米総研さんからは「トラブルが起きなければいいだけなんで、長くて複雑なものはいらんです!その分、安くお願いしまっせ~」とのご意見。さて、どうしたものか!?

◇ 契約書の長短や複雑さは、取引の種類や内容にもよりますが、多くは「どこまでの事項を、どこまで具体的に定めておくか?」との点に大きく左右されます。例えば、経営に関するコンサル契約の場合、①「(単に)コンサル業務を提供する」と規定しておくだけのものから、②「コンサル業務を毎月15時間、提供する」などと具体化したもの、さらには③「コンサル業務を毎月15時間提供するが、電話で提供することも可能であり、また、レポートを作成する場合にはレポート3枚につきコンサル業務1時間分に換算し、電子メールの場合は・・・」などと細かく規定したものまで、いろいろと考えられるわけです。

◇ この点、弁護士や法務関係者からは、「信頼関係だけでビジネスをやるのは危険。しっかりとした契約書を作成しておくことが大切です!」というありがた~い説教をよく聞きますが、必ずしもそうとは限りません。確かに、①「(単に)コンサル業務を提供する」とだけしか規定されていないと、愛米総研さんはいつまでも際限なく長時間のコンサル業務の提供を要求され続けることになるリスクがありますし、不亜爺社のほうも、なんかチョロっとだけ電話で助言らしきことを言ってもらえるだけで、それ以上のコンサルはやってもらえないといったリスクを抱えることになります。曖昧でファジーな契約内容であるため、どちらかの当事者から「コンサル業務の提供分量」に不満が生じた場合、紛争になるリスクが高くなるわけです。ですが、一方で、あらゆる事項について、上記③のように、あるいはそれ以上に具体的な約束事を決めていくと、契約書は膨大・複雑なものになっていきますし、契約交渉だけで長期間を要してしまっていつまでもビジネスが前に進まない・・・、そして契約書作成の報酬で弁護士だけが儲かる(?)という事態に陥るリスクが生じます。信頼関係のもと阿吽の呼吸でビジネスを走らせることは、実際のところ、両当事者に大きな利益をもたらします。どんなビジネスでも、スピードは非常に重要なのです。

◇ 結局のところ、【戦略A】スピードや弁護士費用の節約を重視し、その分だけ“もしもの時のリスク”は覚悟するか、【戦略B】紛争発生時のリスクを最小限に抑えるために、ビジネスのスピードダウンや契約書作成コストを甘受するか、の兼ね合いと言わざるを得ません。当職は、愛米総研さんに助言しました。「まずは、このビジネスに致命的なリスクがあるか、紛争が発生した場合に重大な問題が想定されるかを一緒に検証して、この点の対応に焦点をあてた契約条項を組み上げましょう。それ以外の点は信頼関係を期待して曖昧さを残したシンプルな契約書案とし、不亜爺社側から『御社が一方的に不利になるような修正案』でも出されない限り、スピード優先での契約締結交渉でいきましょうか!但し、シンプルさとスピードを優先した分、“もしもの時のリスク”が幾分高くなる点はご了承くださいね。といっても、あらゆるトラブルや紛争を完全に防ぐ完璧な契約書などありませんから、結局のところ程度問題と言えるかもしれませんけど。」

じゃ、今日はこれで。