ブリッジルーツの日本・中国・韓国見聞録

弁護士法人Bridge Rootsブリッジルーツ
中国人弁護士 厳 逸文

※本記事は亜州ビジネス2016年12月12日第1506号に掲載されたものです。

【第90回】紛争解決方法の選択に関する新視点

 国際取引に関する契約書につき、紛争解決条項を設けることは不可欠である。従来、日本企業と中国企業間の取引につき、法律家は日本商事仲裁協会(JCAA)又は中国国際経済貿易仲裁委員会(CIETAC)による仲裁を紛争解決方法として勧めるのが一般的である。裁判所における訴訟が勧められなかった理由は、概ね二つに概括することができる。一つの理由は、日中間に、互いの裁判所における民事又は商事判決の承認・執行に関する条約が存在しなく、これに関する国際条約に参加したこともない。このため、日本又は中国の裁判所において、勝訴判決を取得した場合でも、相手方の国において強制執行ができないため、相手方が判決に応じなければ、勝訴判決は空文に過ぎない。もう一つの理由は、昔、中国政府の政策により、退役軍人の就職問題を解決するために、軍人が退役した後、直接に裁判官になることができた。したがって、裁判官の中でも、実際に法律を知らない素人が多数であった。また、中国は「人情社会」であると言われるように、司法より人脈の力が強い。このような状況のため、日本企業は中国の裁判所に対し、不信感を持っているのが通常である。そのため、日中企業間の契約書における紛争解決条項に関し、JCAA又はCIETACによる仲裁を選択することが多かった。

 しかし、周知のとおり、国際仲裁に関しては、仲裁費用が高く、JCAA又はCIETACにおける仲裁判断を取得した場合でも、相手方が自主的に仲裁判断を履行しなければ、相手方に仲裁判断を履行させるために、その所在国の裁判所において仲裁判断に対する承認及び執行を求める必要がある。このように、仲裁は、費用コスト及び時間コストが高いことがデメリットである。

 そこで、費用コスト及び時間コストを考慮すると、一定の場合に、中国裁判所における訴訟を選択することも考えられる。実際、現在では中国の司法制度も発展しており、中国裁判所における訴訟を通して、紛争を解決する方法は決して悪い選択肢とは言えない。2002年から、中国は日本と同じように、全国の司法試験を通して、裁判官、検察官及び弁護士を選ぶことになった。更に、裁判官は司法試験の他に、公務員試験に合格する必要もある。また、14年の経過により、昔の「素人法律家」が定年を迎え、優秀な法律専門人材を補充してきたため、中国の司法環境は大きく変わってきた。また、この数年、中国において留学ブームが生じ、弁護士の中でも、日本を含む外国語を流暢に話せる、外国法律を熟知する専門家も少なくない。このような発展は、中国の司法制度に対する日本企業の不信感を徐々に解消することができるのではないかと期待される。

 それでは、如何なる場合に、紛争解決手段として中国裁判所を選択すればよいのか。少なくとも、中国側の当事者が債務不履行の可能性が高く、かつ、中国側当事者に対し強制執行を行う可能性が高い場合、中国裁判所を選択することが考えられる。具体的にいえば、(1)主な債務履行地が中国である場合。例えば、日本企業が、中国に商品を輸出する際に、中国の通関代行業者に通関代行業務を依頼する場合。(2)中国側当事者が金銭債務を負い、かつ、日本において財産がない場合等が挙げられる。例えば、日本企業が中国国内企業に商品を販売する場合、日本企業にとって、主なリスクは商品売買代金の回収問題である。債権回収問題が生じた場合、日本企業の立場からすれば、まず、JCAAによる仲裁判断を取得し、次に中国裁判所においてこの仲裁判断を承認・執行するという二段階の手続きより、最初から中国裁判所において訴訟を提起した方が迅速であり、かつ、費用コストが低いと思われる。しかし、中国企業の立場から見ると、商品に瑕疵等を発見した場合、中国における判決は日本企業を拘束することができないため、逆に日本で裁判を行った方が望ましいだろう。この場合、被告の住所地の裁判所を合意管轄裁判所とする折衷案が考えられる。

 但し、中国裁判所を選択する場合は、中国の弁護士しか出廷できないため、信頼できる現地弁護士を探す必要がある。上海、北京、広州等の大都市においては、日本語が堪能な弁護士は少なくないが、中国の中部又は西部等の都市においては、日本語で直接相談できる弁護士は多くないのが実情である。
 
 以上のように、国際取引契約に関する紛争解決方法の選択は、一言で結論を出せる簡単な問題ではないため、ケースバイケースで、日本及び中国双方の法律を熟知する法律家に意見を求めた方が良いだろう。
以 上