ブリッジルーツの日本・中国・韓国見聞録

著:秋山理恵(弁護士)

【第89回】「転ばぬ先の労働法」 

※本記事は亜州ビジネス2016年11月28日第1496号に掲載されたものです。

―第13回:他の社員から隔離し、実績のほとんど上がらない新規顧客対応のみを組織的かつ長期にわたって行われたことは不法行為にあたるとされた事例(大阪地裁平成27年4月24日判決)―

1 事案(本テーマに関係あるところのみ抜粋)
 Y1証券からY2証券に出向して同社で営業業務に従事していたXが,Y2証券に出向した後,上司から様々な嫌がらせを受けて精神的損害を被ったので,Y1証券及びY2証券に対し,連帯して,慰謝料200万円等の支払を求めた。Xが受けたとされる嫌がらせは以下のとおり。
  1.  Xの席は、 営業部に本配属となる11/12までは他の営業部員と同じく営業部室内にあったが,その翌日である11/13からは,営業部室内には空いている席があるにもかかわらず,1人だけ別室に移動させられた。
  2.  しかも,Xが別室内で使用している机や椅子は,一般に会議で使用される長机やパイプ椅子であり,与えられたパソコンからは営業部員が業務上の情報を保存している共有フォルダに接続することができないようになっており,他の営業部員が全員参加している朝会やコンプライアンス会議にはXのみ出席させず,営業部の歓迎会や忘年会にもXは呼ばれず,営業部の連絡網においても他の営業部員は順次他の営業部員に連絡することになっているのに,Xは本店長が直接連絡することになっていた。
  3.  約1年にわたり、新規顧客開拓業務のみに従事させ、1日100件訪問するよう指示された。午前9時から午後4時30分まで社外に出て営業活動を行うとしても,休憩時間を1時間とすると営業活動に充てることのできる時間は6時間30分であり,その間に100件訪問するには1件当たり3分54秒で訪問しなければならない(しかも,実際は移動時間等もあるのでもっと短時間である)。
  4.  Xの営業活動の結果,被告Y2証券管理課に対し,口座開設のために必要な,保護預り口座設定申込書及び本人確認書類を提出し,その後Xが属性確認のために新規顧客宅を訪問しているが,その後,新規顧客の口座開設の手続は進められず,Y2証券は新規顧客に口座開設に必要な書類を返却している。

2 裁判所の判断
 YらのXに対する嫌がらせは,Xを他の社員から隔離し,ひたすら実績のほとんど上がらない新規顧客開拓業務のみ行わせるものであり,しかも,組織的かつ長期にわたって行われているから,態様は悪質であって、一時は退職を考えるなどXの受けた精神的損害は小さくなく、そうするとXの勤務態度に問題がなかったとはいえないことなどを考慮しても,Xの精神的損害を填補するための慰謝料は150万円が相当である、と判決した。

3 ポイント
 Xは、①11/13に11/16・11/19~22の有休を取得(この年は11/23(金)が祝日のため、実質10連休)し、新しい業務に対する意欲があるようには思えない行動を取っていたり、②真面目に営業活動を行っていなかったりしたようです。なお、Y1Y2は、③E専務がXに「挨拶ぐらいはしっかりしなさい」と咎めた際に、Xは顎を突き出すなど反抗的な態度をとり、Eから「私を誰かわかっているのか」と言われて、「あ、E」と呼び捨ててE専務を睨み付ける等の態度を取ったと主張しており(※ただし、裁判所は明確には認定していません)、双方の関係が悪化していることが伺われます。
 裁判所は、他の社員から隔離し,ひたすら実績のほとんど上がらない新規顧客開拓業務のみを約1年行わせた行為が,組織的かつ長期であるとして、出向先のY2だけでなく、出向元のY1についても不法行為の成立を認めています。

4 転ばぬ先のチエ
 会社は利益追求を目的とする様々な人間の集団・組織です。その中には様々な人がいます。しかし、会社が気に入らないからといっていわゆる追い出し部屋に追いやったり、歓迎会や忘年会に1人だけ呼ばなかったり、実績のほとんど上がらない新規顧客開拓業務ばかり行わせたりするとそのこと自体が不法行為とされる場合があります。仲間から会社が損害賠償請求されることは会社にとっても働く社員にとっても辛いこと。社員全員で本来の目的に向かって邁進していきたいものです。
以 上