ブリッジルーツの日本・中国・韓国見聞録

弁護士法人Bridge Rootsブリッジルーツ
弁護士 神山 優一

※本記事は亜州ビジネス2016年11月11日第1486号に掲載されたものです。

【第88回】生涯弁護士の徒話「法務の役割」


◇ 長年、企業法務をやっておりますと、いつも社長さんや法務担当者さんにお話しする「お決まりの話」というものが自然とできてくるものです。今日はそんな十八番のうちの1つを。

◇ 例えば、先日、当職のクライアントさんの迷宇商事さん(仮)からこんな相談がありました。「当社は、名具留興業(仮)が製造する幼児用のイスの販売代理店をやってるんですが、昨日、名具留興業から『お前のところは雷場留商会(仮)のイスを販売しているようだが、代理店契約書第12条の“競合する製品を取り扱ったらダメ!”って条項に違反している。この落とし前をどうつけるんだ?』なんて内容証明が届いたんです。どうしましょう!?」というのです。選択肢は2つ。【選択肢A】素直にワビをいれて、心ばかりの謝罪金で許しを請うか。【選択肢B】そんな契約は独禁法違反等で無効だとか、そもそも幼児用のイスではないから競合する製品じゃないとか言って、対決姿勢を示すか。

◇ 【選択肢A】は、弁護士費用も時間もかからずに、さっさと解決できる可能性があるけれど、「そうかそうか。自分が悪かったのは認めるんだな。ところで、そんな端た金じゃ到底許せんので、もっと払え。払わないなら訴えるぞ!」なんて言われてしまい、契約の無効やら競合製品不該当やらで戦うことができなくなるリスクがある。他方、【選択肢B】は、戦うために弁護士費用や多くの時間がかかる可能性が高いし、相手方を怒らせてしまって話し合いで許してもらえる機会をみすみす逃してしまうかもしれないというデメリットがある。これは悩む。いろいろと考えてみてもなかなか正解が見つからない。

◇ 困ったときには原理原則に立ち返ること。そもそも法務とはなんぞや?という原点に立ち返ります。法務部門や弁護士の役割は、「法律上、負けるべきときに負けるのは許されるが、負けるべき範囲を超えて大負けしてしまったら任務懈怠やら弁護過誤になりかねない!」という性質のものであります。この観点から眺めてみると、法律紛争には“4つの解決”があるのが分かります。

【1つめの解決】素直に謝ったら、わずかな謝罪金でさっさと許してくれた。これ、ベスト。
【2つめの解決】全力で戦ったら勝利した。これ、セカンド。
【3つめの解決】全力で戦ったら敗北した。これ、サード。
【4つめの解決】素直に謝ったら、本来負けるべき範囲を超えて大負けした。これ、ワースト。

その役割や責務に照らせば、法務部門や弁護士は【4つめの解決】に陥ってしまったらアウト。それ以外はセーフです。したがって、【2つめの解決】~【3つめの解決】の間を目指すのが筋なんですね。「最悪回避戦略」という観点からも同様の結論に至るでしょう。

◇ すなわち、正解(?)は、「【1つめの解決】を狙っても【2つめの解決】~【3つめの解決】にリカバリーできる道があるなら、まずは【1つめの解決】を狙う。他方、リカバリーの道が怪しいなら全力で戦う!」です。もちろん、企業をとりまく状況は個々の案件で全然違いますので一概には言えませんが、法律問題では基本となる戦略型思考となりますので、要チェックです。

◇ 当職は、迷宇商事さんに助言しました。「顧問弁護士に尋ねたら『いやいや、迷宇商事さんが悪くない可能性、けっこう高いですよ』なんて言われたけれども、実際に弁護士に依頼すると弁護士費用も高くつくし時間もかかるから、名具留興業さんとは信頼関係もあるし、例えば、『名具留興業製のイスを50脚購入の上、雷場留商会製のイスの取扱いはやめる』ということで本件を解決できません?って感じで(まずは口頭で)打診してみて、ダメなら徹底抗戦で行きましょうか!」

じゃ、今日はこれで。