ブリッジルーツの日本・中国・韓国見聞録

弁護士法人Bridge Rootsブリッジルーツ
代表弁護士 橋 本 吉 文
執筆協力 中国人弁護士 厳 逸文

※本記事は亜州ビジネス2015年12月に掲載されたものです。

【第85回】中国における債権回収の注意点

 日中間のビジネスにおいて、昔も今も多いのが中国企業に対する債権回収の問題である。今回は、中国における債権回収について、見落としがちな点を解説する。

1.時効を成立させないこと
 日本法上、商事債権の消滅時効は5年であるが、中国法上の消滅時効は2年しかない。このように、中国における債権の消滅時効は日本より短いため、債権回収の方法を検討しているうちに、債権の消滅時効が成立してしまうケースも少なくない。もちろん、日本法と同様に、中国においても、時効中断の方法もある。中国法における時効中断については、大きく①訴訟の提起、②裁判外の請求及び③債務者から債務履行の承諾を取得するという三つの方法がある。このうち、②の「裁判外の請求」の範囲は、日本法と異なる。日本法上、内容証明郵便は裁判外の請求として認められるが、中断の効力は6ヶ月しかない。しかし、中国法上は、①弁護士レター、②債権者による督促状又は督促の電子メール、③債務者が行方不明になった場合、国家レベルの新聞に掲載された督促公告等も「裁判外の請求」として、認められる。したがって、支払遅延があるとき、債務者に定期的に督促状や督促メールを送付することは、時効の成立を防止する有効な方法となる。しかも、上記方法による時効中断の効力には、日本法のような期間制限はない。

2.強制執行ができる公正証書
 返済合意書を締結することは、債権回収の際によく利用される方法である。中国においても、日本と同様に、返済合意書について、公証するのが一般的である。しかし、公正証書を作成する際、強制執行認諾約款を規定していない場合には、裁判手続を経ることなく強制執行はできないことに注意しなければならない。せっかく返済合意書の公正証書を作成したのに、強制執行認諾約款を規定していないため、結局、裁判をしないといけなくなり、無駄なコストを支払うケースもある。

3.保全の利用
 中国における訴訟による債権回収について、クライアントから民事保全制度があるか否かをよく聞かれる。中国は、訴訟前でも、訴訟中でも、債務者による資産の隠匿・処分による執行難を防ぐために、債務者の資産について差押、押収、凍結などの強制措置による保全を申し立てることができる。但し、下記点に注意しなければならない。
  1.  請求金額と相当額の担保を提供する必要がある。
  2.  債務者の銀行口座番号、車の番号、不動産の位置などの手掛かりを裁判所に提供する必要がある。中国の裁判官にも、調査の権限があるが、裁判官の担当案件が相当多いため、調査に限界があり、あまり期待できないのが現状である。
  3.  訴訟前に保全措置を執る場合、15日以内に訴訟を提起しなければならない。

4.紛争解決方法の選択
 国際取引について、仲裁によって紛争を解決するのが一般的である。しかし、仲裁費用が高額であるというデメリットがある。したがって、中国への商品輸出等、債権者になる可能性が高い取引や取引金額が少額である等の場合、契約書において、仲裁ではなく、中国現地の裁判所における訴訟により、紛争を解決することを定めることも考えられる。
以 上