ブリッジルーツの日本・中国・韓国見聞録

弁護士法人BridgeRootsブリッジルーツ
李 武哲(弁護士)
執筆協力:金 佑樹(弁護士)

【第82回】韓国における離婚

※本記事は亜州ビジネス2015年11月9日第1240号に掲載されたものです。

1.有責主義と破綻主義
 日本の民法では、離婚事由として、不貞行為、悪意の遺棄等の具体的事由のほか、抽象的な事由として「婚姻を継続し難い重大な事由」があるときと定められています。
 どこまで広く離婚を認めるかについては、有責主義と破綻主義のいずれをとるかによることになります。有責主義とは離婚請求の相手方に不貞行為等の有責な原因があった場合に離婚を認めるものをいい、他方、破綻主義とは長期間の別居等により婚姻関係が破綻している場合に相手方に有責な原因がなくても離婚を認めるものをいいます。有責主義よりも破綻主義の方が離婚原因が広く認められることになり、歴史的には有責主義から破綻主義に移行する流れが指摘されています。
 かつての日本でも、自分で婚姻関係の破綻をまねいた有責配偶者からの離婚請求は認められないとの立場がとられていました。しかし、昭和62年9月2日の最高裁の判決でこれを変更する判断が示されました。最高裁は、「夫婦の別居が両当事者の年齢及び同居期間との対比において相当の長期間に及び、その間に未成熟の子が存在しない場合には、相手方配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情の認められない限り、当該請求は有責配偶者からの請求であるとの一事をもって許されないものとすることはできないものと解するのが相当である。」と判示しています。

2.韓国における有責配偶者からの離婚請求
 韓国民法において定められている裁判上の離婚原因は、その多くが日本法と同様のものとなっています。韓国民法840条は、①配偶者に不貞行為があったとき、②配偶者が悪意で他の一方を遺棄したとき、③配偶者又はその直系尊属から著しく不当な待遇を受けたとき、④自己の直系尊属が配偶者から著しく不当な待遇を受けたとき、⑤配偶者の生死が3年以上明らかでないとき、⑥その他婚姻を継続することが困難な重大な事由があるときに、家庭裁判所に離婚を請求することができるとしています。
 有責配偶者からの離婚請求について、韓国の裁判所は、有責配偶者からの離婚請求は認められないとの判例を踏襲してきましたが、これに対しては、破綻した婚姻関係についてまで離婚を認めないのは個人の自由を侵害するのではないかとの声も広がっていました。
 このような状況の中、今年9月、不貞行為により婚姻関係の破綻をまねいた有責配偶者からの離婚訴訟において、韓国の最高裁判所は、改めて有責配偶者からの離婚請求は認められないとの判断を示しました。離婚に責任のない配偶者の生活や子供の不利益を考えると、有責配偶者からの離婚請求を広く認めるのは時期尚早との判断です。破綻主義を採用する国々と異なり、韓国では協議離婚の道も開かれていることや離婚後の配偶者の生活等に対する法制度も整備されていないことが考慮されています。

3.おわりに
 今回、韓国では有責配偶者からの離婚請求を認めないことが改めて示されたわけですが、今回の最高裁の判断でも判事13名のうち6名から反対意見が出されているように、この点についての社会的な議論は今後も続いていくものと思われます。
 婚姻制度はその国の歴史、風土、風習等が色濃く反映する分野です。お隣の国、韓国の離婚制度がこれからどのように変化していくのか、大変興味深いところです。
以 上