ブリッジルーツの日本・中国・韓国見聞録

弁護士法人BridgeRootsブリッジルーツ
李 武哲(弁護士)
執筆協力:宮川 峻(弁護士)

【第78回】韓国の住民登録番号制度について

※本記事は亜州ビジネス2015年9月14日第1205号に掲載されたものです。

1.はじめに
 マイナンバーの利用開始がいよいよ来年1月に迫ってきました。
 日本ではこれから利用開始となるマイナンバーですが、お隣の韓国では、住民登録番号の利用開始から既に約50年が経っています。
そこで、今回はこの韓国の住民登録番号についてご紹介したいと思います。

2.住民登録番号制の導入と変遷
 韓国では、1962年に、行政事務の適正で簡易な処理を図ることを目的として住民登録法が制定され、国民は住民登録を行うことになりました。この時点では、単に住民登録のみで、国民に番号は付されませんでした。
 そうしたところ、1968年1月21日、北朝鮮兵による大統領襲撃未遂事件(青瓦台襲撃未遂事件)が発生しました。この事件を受けて、韓国政府は、北朝鮮のスパイ識別などの目的のために、18歳以上の全国民に住民登録番号を付与することを決定し、韓国の住民登録番号制度がスタートしました。
 その後、幾度もの住民登録法の改正を経て、現在では17歳になると住民登録番号が付与されるという制度になっています。そして、住民登録番号自体も、導入当初は12ケタの数字で構成されていましたが、現在は13ケタの数字で構成されており、生年月日、性別及び出生地がわかるようになっています。

3.住民登録番号制度の利用状況
 まず、公的な手続については、ほぼ全ての場面で住民登録番号が使用されています。これにより、国民は、申請手続の手間を軽減できるというメリットを享受しています。加えて、パスポートや運転免許証など公的機関が発行するほとんどの証明証に住民登録番号が記載されており、本人確認も簡単に行うことができるようになっています。
 また、住民登録番号は、公的な手続での使用にとどまらず、民間でも広く一般的に利用されています。例えば、就職活動や金融機関の手続、様々な会員登録(インターネット上での会員登録なども含む)などの場面において、本人確認のために住民登録番号を使用されることが非常に多いです。また、韓国ではインターネット上の誹謗中傷等のトラブル回避のため、一定のインターネットサイトを利用する際には住民登録番号を入力して本人確認を行わなければならないとするインターネット実名制も導入されました(ただし、2012年に韓国の最高裁がインターネット実名制を違憲であると判断を示したことで、その後は住民登録番号に代えたi-PIN(インターネット上のみで使用する仮想住民登録番号)の利用などを推進しています)。
 このように、韓国では、住民登録番号制度は社会のあらゆる場面に浸透しており、生活を行う上で、欠かすことのできない制度となっています。

4.住民登録番号制度をめぐる問題点
 上述のように、住民登録番号制度が韓国社会の隅々まで浸透した結果、民間の会社が多くの国民の個人情報を保有しているという状態が生じました。住民登録番号を管理する民間企業の情報管理能力には著しい格差があります。そのため、情報管理能力の低い企業が狙い撃ちされ、ハッキング等により個人情報が大量に流出するといったトラブルが何度も起きています。
 住民登録番号は、上述のとおり、様々な場面で個人特定のためのキーとして作用しているため、一旦どこからか個人情報が流失してしまうと、住民登録番号をもとにその個人に関する様々な情報が芋づる式に流失してしまい、その個人のプライバシーが丸裸にされてしまうという弱点があります。その結果、簡単に他人になりすますことが可能となり、なりすましによる銀行口座の開設、各種取引、インターネット詐欺などの犯罪に至ったケースなどが多数あります。また、インターネットでもなりすましによるトラブルが頻発しています。
 このように、住民登録番号は便利な一方、管理する者がしっかりと管理できていない場合、犯罪など様々なトラブルの温床になってしまうという面があります。
 そのため、韓国では、住民登録番号を収集・利用・管理する民間企業に対し、収集利用管理する情報の範囲に制限を設けるなどの規制を行うようになってきています。

5.さいごに
 日本でのマイナンバーの運用はこれから開始されるものであり、今後どこまで運用範囲が広がるのかはわかっていません。運用範囲が広がれば広がるほど上述のような情報流出に伴うなりすましなどのトラブルが発生しやすくなります。そのため、今後マイナンバーの運用範囲をどこまで広げるべきか、その際の規制はどうするべきかなどの点について議論になることが予想されますが、その際に韓国の住民登録番号制度が非常に参考になります。そのため、今後も住民登録番号に関する韓国の動きに注目していきたいと思います。
以 上