ブリッジルーツの日本・中国・韓国見聞録

弁護士法人Bridge Roots ブリッジルーツ
上海事務所 顧問 古島忠久

【第76回】「貸工場を借りる場合の注意点」

※本記事は亜州ビジネス2015年8月17日第1185号に掲載されたものです。


 日系企業の中国展開にはいろいろな進出形態があります。事務所を借りて貿易業やサービス関連の業務をする企業、或いは土地使用権を取得し自社工場を建設し製造業を行なう企業、同じ製造業でも土地使用権は取得せずに開発区や開発業者、又は個人が建てた貸工場(レンタル工場)を借りて内装工事だけを自社で行い、製造業を行なう企業など様々です。ここ数年はサービス関連の業務をする企業の進出が多いと感じており、対して製造業の方はあまり新規の話は聞かないですが、それでも既に進出している企業が再開発に伴う移転や業務の拡大、又は縮小による移転を行う企業もあるでしょう。そのような時に貸工場を借りて生産をする、というのも一つの方法です。

 基本的には貸工場を借りるのはいろいろな手続きが省け便利です。土地使用権を取得し、自社工場を建設する手続きや手間、またそれに掛かる期間を考えると、貸工場は大幅な期間短縮と手間を省けます。既にご存知の方も多いでしょうが、改めて簡単に説明しますと、土地使用権取得作業だけでも使用権の費用を支払えば直ぐ使用権を取得できるわけではなく、先ずは各開発区へ行き、何の目的でどのような業務をするのか、を説明(資料等の提出を求められる場合もある)して各開発区が認めてくれると(汚染企業等は却下される場合もある)、用地候補地を紹介して貰える。

 その後、手続き上、競売手続きを行うことになるので、それまで何か月も待たされる場合もある。無事に使用権を取得できてから、ようやく工場建設に進むことになっても、ここでまたいろいろな申請作業をしなければなりません。普通は工事を請負う業者が代行してくれるのですが、それでもそれ相応の労力が掛かります。また建設許可が下りるまで半年以上掛かったという話も聞きます。そのような手間や期間が掛かるので、土地使用権を取得して自社工場を一から立ち上げようとすると生産開始まで、2年程掛かることもあります。

 話を元に戻しますが、貸工場の場合は先に述べたいろいろな手続きを大幅に短縮(土地使用権取得手続きは不要で、建物も既に建っているので、内装工事に関する手続きだけで済む)できるので、早く生産をしたい企業には便利です。規模や内装工事の複雑さにもよりますが、約半年後には生産開始ができるでしょう。このように一見便利で簡単にできそうですが、時にはトラブルに発展することもあります。以前にある総経理からお話を聞いたことがあります。その企業は貸工場を借りることになり、複数の貸工場を見学したそうですが、建物の形と場所が気に入った所があったので、そこを賃貸借契約したそうです。そして内装工事に掛かるため、環境評価報告書(製造業を行なう場合は必要)の作成を業者へ依頼して、環境評価報告書の完成を待っていたところ、問題が発覚しました。借りた貸工場は個人オーナーの所有で、建設後、借り手が何年かいなかったとのことで、排水許可証の更新手続きをしていなかった為、環境評価報告書が上がらず、内装工事の許可も下りない状態で数カ月、何もできなったそうです。この手続きはそれほど難しくないと感じておりますが、大家は掛かる費用を払いたくなかったのか、或いは他の何か複雑な問題が絡んでいたのか、は大家本人しか分からないでしょうが、一般的に考えますと、排水許可証は当然大家が用意するものですが、大家の義務や借主の義務が曖昧だったようで、個人オーナーだったので起きた問題かもしれません。(開発区や開発業者直轄の貸工場ではこのような問題は多分なかったでしょう)

 このように予期せぬことも起こることがありますので、賃貸借契約の内容は専門家を交えてチェックした方が良いでしょう。
以上