ブリッジルーツの日本・中国・韓国見聞録

著:秋山理恵(弁護士)

【第75回】「転ばぬ先の労働法」 

※本記事は亜州ビジネス2015年8月3日第1175号に掲載されたものです。

―第10回:職場における性的な内容の発言等によるセクハラ等を理由としてされた懲戒処分が有効であるとされた事例(最高裁平成27年2月26日判決)―

1 事案および裁判所の判断
 男性従業員Xらが、それぞれ複数の女性従業員に対して性的な内容の発言等によるセクハラをしたことを懲戒事由として、勤務先(水族館)のY社から出勤停止の懲戒処分(X1は30日間、X2は10日間)、下位の等級への降格処分を受けたため、XらがY社に対し、出勤停止処分の無効確認や、降格前の等級を有する地位にあることの確認等を求めた。裁判所は、Yの行った処分は、懲戒権を濫用したものとはいえず、有効というべきと判断した。

2 Xらが行った主なセクハラ行為
(1)X1(営業部サービスチームのマネージャー)の行為
  •  1人で勤務している女性従業員に対し、「俺のん、でかくて太いらしいねん。やっぱり若い子はその方がいいんかなあ。」と発言
  •  1人で勤務している女性従業員に対し、「夫婦間はもう何年もセックスレスやねん。」「でも俺の性欲は年々増すねん。なんでやろな」「でも家庭サービスはきちんとやってるねん。切替えはしてるから。」と発言した。
  •  1人で勤務している女性従業員に対し、自らの不貞相手が自動車で迎えに来ていたという話をする中で、「この前、カー何々してん。」と言い、「何々」のところをわざと女性従業員に言わせようとするよう話を持ちかけた。
  •  女性従業員のいる休憩室で、水族館の女性客について、「今日のお母さんよかったわ・・・。」「かがんで中見えたんラッキー。」「好みの人がいたなあ。」等と発言した。
(2)X2(営業部課長代理)の行為
  •  女性従業員に対し、「結婚もせんでこんな所で何してんの。親泣くで。」と発言した。
  •  女性従業員に対し、「30歳は、22、3歳の子から見たら、おばさんやで。」「もうお局さんやで。怖がられてるんちゃうん」「精算室に従業員○さんが来たときは22歳やろ。もう30歳になったんやから、あかんな」等の発言を繰り返した。
  •  女性従業員に対し、「毎月、収入どれぐらい。時給いくらなん。社員はもっとあるで。」「お給料全部使うやろ。足りんやろ。夜の仕事とかせえへんのか。時給いいで。したらええやん。」「実家に住んでるからそんなん言えるねん、独り暮らしの子は結構やってる。MPのテナントの子もやってるで。チケットブースの子とかもやってる子いてるんちゃう」と繰り返し発言した。
  •  女性従業員に対し、具体的な男性従業員の名前を複数挙げて、「この中で誰か1人と絶対結婚しなあかんとしたら、誰を選ぶ。」「地球に2人しかいなかったらどうする」と聞いた。
  •  セクハラに関する研修を受けた後、「あんなん言ってたら女の子としゃべられへんよなあ。」「あんなん言われる奴は女の子に嫌われているんや」という趣旨の発言をした。

3 ポイント
 原審は、女性従業員から明白な拒否の姿勢を示されておらず、女性従業員から許されていると誤信していた等とXらに有利な事情として斟酌しました。しかし、最高裁は、職場におけるセクハラは、被害者が内心で著しい不快感や嫌悪感を抱きながらも、職場の人間関係の悪化等を懸念して、加害者に対する抗議や抵抗ないし会社に対する被害の申告を差し控えたり躊躇したりすることが少なくないことなどから、これを有利な事情として判断しませんでした。
 
4 転ばぬ先のチエ
 X1の発言がセクハラと判断されたことは理解できても、X2の発言がセクハラと判断されたことに驚いた方もいらっしゃるかもしれません。親しさを表すつもりの言動であったとしても、本人の意図とは関係なく相手を不快にさせてしまう場合があります。相手の気持ちを思いやり、皆で気持ちよく働ける職場になるよう努力していくことが推奨されます。
以 上