ブリッジルーツの日本・中国・韓国見聞録

弁護士法人BridgeRootsブリッジルーツ
李 武哲(弁護士)
執筆協力:宮川 峻(弁護士)

【第74回】韓国おける大統領の権限について

※本記事は亜州ビジネス2015年7月21日第1166号に掲載されたものです。

1.はじめに
 平成27年6月25日、韓国の朴槿恵(パク クネ)大統領が、国会で可決された改正国会法について「拒否権」を発動したことが話題となりました。
 拒否権は、大統領制特有の制度であり、議院内閣制を採用する日本には存在しません。そのため、日本人にとってはあまりなじみのないものだと思います。そこで、今回はこの拒否権について説明したいと思います。

2.拒否権
 現在、多くの国家では、権力を分散する権力分立の仕組みが採用されており、中でも最もオーソドックスなのが、権力を行政権・立法権・司法権の3つに分ける三権分立です。韓国も三権分立を採用しており、大統領(=行政権)、国会(=立法権)、法院(=司法権)となっています。
 拒否権とは、端的にいうと大統領(行政)が、国会(立法機関)に対して法律案の再議を求める権限です。韓国の憲法では53条2項に規定されており、大統領は、法律案の議決から15日以内であれば拒否権を発動することができます。拒否権が発動されると、国会は法律案を再議に付し、在籍議員の過半数の出席及び出席議員3分の2以上の賛成により、前回と同様の議決をすれば、その法律案は、法律として確定されます。
 このように、拒否権が行使された場合、法律案の再議決には非常に厳しいハードルが課されることになります。
 大統領にこのような拒否権を認めることは、行政権による立法権の侵害であり、三権分立の理念に反するかのように思えます。しかしながら、これこそが、大統領制の特徴といえるところなのです。
 韓国の大統領は、主権者である国民の直接選挙によって選ばれます。そのため、大統領は、国会と同様に国民の代表者としての性質を有することから、このような大きな権限が認められているのです。

3.今回の拒否権発動の理由
 今回、拒否権発動の対象となったのは、改正国会法です。具体的には、現行の国会法98条の2第3項において、「(国会は)大統領令などが法律の趣旨や内容に合致されないと判断される場合には、所管の中央行政機関の長にその内容を通知することができる。」と規定されているのを、「(国会は)大統領令を修正変更するよう要求することができ、この場合、要求を受けた事項を処理し、その結果を報告しなければならない。」と改正しようとしたものでした。
 これを受けて、朴大統領は、この改正国会法は国会によって大統領令の修正を強制されるものであり、国会による行政権の侵害であるから、受け入れることができないとして拒否権を行使しました。
 今回の改正国会法は、朴大統領の所属する与党のセヌリ党も賛成した上で可決されたものでしたが、セヌリ党は、拒否権の発動を受けて再議の採決には参加しませんでした。これにより、再議のための定足数不足となり、今回の改正案は廃案となりました。

4.さいごに
 今回は、韓国の大統領が有する権限について紹介しました。日本と韓国は、法制度が非常によく似ていますが、いくつかある大きな違いの一つがこの大統領制の採用です。大統領は上述のように大きな権限を有していますので、国内外の問題すべてに非常に大きな影響を及ぼします。このような相違点を意識したうえで韓国の政治ニュースに触れると、より理解が深まるのではないでしょうか。
以 上