ブリッジルーツの日本・中国・韓国見聞録

弁護士法人BridgeRootsブリッジルーツ
李 武哲(弁護士)
執筆協力:金 佑樹(弁護士)
宮川 峻(弁護士)

【第66回】韓国における特許法改正

※本記事は亜州ビジネス2015年3月10日号に掲載されたものです。

1.はじめに
 韓国では、2015年1月1日より、改正特許法が施行されました。
  今回の改正は、出願様式や出願条件等について国際的に統一化、簡素化することを目的に採択された特許法条約(PLT;Patent Law Treaty)に準拠した内容になっています。これにより、外国人や外国法人による特許の申請が簡単になりました。
以下、今回の改正内容を説明します。

2.主な改正点
(1)出願日認定要件の緩和
 出願日を認定するための要件が、特許法条約に準拠して以下のように緩和されました。これらの改正により、特に外国人や外国企業がより迅速に特許の申請ができるようになります。
① 外国語による出願が可能
 韓国において特許出願しようとする場合、これまでは、韓国語で明細書や図面を記載した上で出願することが必要でしたが、2015年1月1日の出願分より、外国語(現在は英語のみ)による出願が可能となりました(韓国特許法(以下「法」といいます)42条の3第1項、特許法施行規則(以下「規則」といいます)4条、21条の2第1項)。ただし、英語で特許出願をする場合、出願日(優先権を主張する等の場合には、別途法令に規定された日)から1年2か月以内に明細書や図面等の韓国語訳文の提出が必要となります(法42条の3第2項)。
 特許を申請する場合、その国の言語や指定する一部の言語で申請しなければならないという運用をしている国が多いです。そのため、いかなる言語でも出願できることをうたっている特許法条約の締結国は未だ36か国にとどまっており、韓国も日本も未加入です。英語による申請を認めた今回の改正は、韓国が特許法条約に加入することを見据えて一歩前へ踏み出した改正と考えられます。なお、日本も現段階で、外国語による特許出願は、英語しか認めていません(日本特許法第36条の2第1項、同法施行規則25条の4)。
② 出願時にクレームの提出が不要
 出願の際に、クレーム(特許を受けようとする発明を特定するための事項)の提出が不要です(法42条の2第1項)。ただし、出願日(優先権を主張する等の場合には、別途法令に規定された日)から1年2か月以内にクレームを記載して補正した明細書をその韓国語訳文とともに提出することが必要となります(法42条の3第2項)。
 韓国をはじめとするほぼすべての国で、同一の発明について2以上の特許出願があった場合、先に特許出願をした者に特許が付与されるという先願主義が採用されています(近年まで先発明主義を採用していたアメリカも現在は先願主義に移行しています。)。クレームの設定は、特許申請の肝というべき部分であり、クレームの設定の仕方次第で、特許の取得の成否及び取得した特許権の効力の範囲が決まります。今回の改正により、一旦特許申請をした後で、じっくりとクレームの設定範囲を考えられるようになりましたので、発明をした人または企業にとって権利保護の可能性が高まったといえます。

(2)韓国語訳文の誤訳の補正が可能
 改正前も、国際特許(特許協力条約(PCT)に基づいて一つの出願を複数の国に出願した効果を与える手続)の出願であれば、外国語による特許出願が可能でしたが、その際、韓国語訳文に誤訳があった場合であっても、その誤訳を補正することはできず、その誤訳のある韓国語訳文を基準とした補正や訂正しかできませんでした。
 しかし、今回の改正により、外国語による特許出願の場合、国際特許出願の場合のいずれであっても、韓国語訳文に誤訳があった場合には、出願時に外国語で作成された明細書や図面を基準に補正や訂正ができるようになりました(法42条の3第6項、201条第6項)。

(3)国際特許の出願における韓国語訳文提出期限の延長
 国際特許を受けるために、韓国を指定国として外国語による特許出願した場合、韓国語訳文を2年7か月以内に提出する必要がありますが(法201条第1項)、これを事前申請によって1か月延長することができるようになりました(法201条第1項但書)。

3.最後に
 このように、今回の改正は、特許法条約加入を見据えたものと考えられます。特許法条約に準拠した法整備をするメリットとしては、まず、海外から優れた技術やノウハウが国内に持ち込まれ、国内の技術促進に役立つということが挙げられます。また、経済協定締結の際に特許法条約への加入が条件となる場合もあり、経済協定の締結にも役立ちます。そして、特許法条約は出願の簡素化も図っているので、国内の中小企業が容易に特許出願をできるようになり、中小企業の知的財産保護が活発化することも見込まれます。このように、特許法条約に準拠した法整備をすることによるメリットは大きいです。日本も特許法条約(PLT)加入に向けた法整備を進めており、2011年から2014年にかけて、特許法条約に準拠した法改正が行われています。韓国と日本がそれぞれ特許法条約に準拠した法整備を進めるにあたり、互いの国での運用状況は重要なサンプルとなると考えられます。
以 上