ブリッジルーツの日本・中国・韓国見聞録

弁護士法人Bridge Rootsブリッジルーツ
代表弁護士 橋 本 吉 文
執筆協力 中国人弁護士 厳 逸文

【第61回】知らないと怖い「商業賄賂」

※本記事は亜州ビジネス2015年1月26日号に掲載されたものです。

 2008年、中国において独占禁止法が施行されて以降、中央政府は国内市場のルールを整備し、独占禁止法や不正競争防止法などを積極的に活用して、商業賄賂と私的独占行為を重要な取締り対象としてきた。
 私的独占行為については次回に説明し、今回は商業賄賂について解説する。

1.中国の商業賄賂について
 2008年から、シーメンス、コカコーラ、IBMなど一連の大手国際企業が商業賄賂事件に巻き込まれた。特に2013年から2年に亘って世間を騒がせたグラクソ・スミスクライン社(GSK)の商業賄賂事件においては、会社に対して30億人民元という多額の罰金が科され、外国籍1人を含む5人の経営陣メンバーに対して懲役刑(執行猶予)が科された。一般に外資系企業は中国の商業賄賂に関する規定に馴染みがなく、無意識のうちに商業賄賂事件に巻き込まれ、その結果、突然工商局に調査され、過料を科される事例も少なくない。そのため、中国の商業賄賂に関する規定をよく理解する必要がある。
 反不正競争法(以下「不競法」という)第8条では、「事業者は財産物品またはその他の贈賄手段を用いて商品を販売或いは購入してはならない」と規定されている。当該規定について、以下幾つかの注意すべき点を指摘する。

(1)商業賄賂に係る行為主体
 日本と異なり、中国においては、賄賂の収受者として国家機関や国有企業従業員などの公務員又はみなし公務員に限らず、民間企業やその従業員も含まれるため、民間同士の間でも商業賄賂規定を犯す可能性がある。しかも、賄賂の収受者及び供与者両方とも違法とされる。また、従業員が賄賂行為を行った場合、従業員の行為は会社の行為とみなされ、法人についても犯罪が成立し、役員まで刑罰が科される恐れがある点に注意しなければならない。

(2)賄賂行為について
 不正な目的により、相手方に直接に金銭又は物品を供与する他、市場価格を遙かに下回る価格での住宅提供、子供の海外留学に対する援助、豪華な接待の提供や海外視察を口実とした海外旅費の負担など様々な方法により、相手方に利益を与えた行為も賄賂行為と認定される可能性がある。
 また、事業者は商品を販売或いは購入する場合、明示の方式によって相手側に割引サービスを与え、仲介人に仲介手数料を与えることやそれを受けることもできるが、この割引又は仲介手数料を帳簿類に正確に記帳しない場合には、商業賄賂行為に当たる可能性がある。

(3)賄賂額の累積計算
 検察当局が公布した司法解釈により、民間企業間の賄賂行為について、刑事事件として立件・追訴できる金額基準は、下記表の通りである。

収賄罪

5000元以上

贈賄罪

個人による場合

1万元以上

組織による場合

20万元以上

 上述金額はいずれも累計金額であるため、一回500元の小額金銭しか収受してない場合でも、10回繰り返せば、商業賄賂罪と認定される可能性がある。

2.商業賄賂に関する法的責任
 行政上の責任として、工商局は1万元以上20万元以下の過料を科し、違法収入を没収することができる(不競法第22条)。過料金額につき上限があるものの、実務上では、違法収入が1千万元超の高額で認定されるケースがよく見られる。
 刑事上の責任として、賄賂の収受者は収賄罪を構成し、供与者は贈賄罪を構成し、下記刑罰が適用される(刑法163条、164条)。

 

賄賂金額が「比較的大きい」場合

賄賂金額が「巨額」である場合

収賄罪

5年以下の懲役又は拘留

5年以上の有期懲役及び財産没収の併科可

贈賄罪

3年以下の懲役又は拘留

3年以上10年以下の懲役及び罰金の併科

 近年、中国における商業賄賂リスクが高まっているため、日系企業も会社内部のコンプライアンス制度を見直し、日本本社から中国子会社に対する管理を強化し、定期的に自社調査を行う等の方法により、商業賄賂への対応制度を早急に整備する必要があるだろう。
以  上