ブリッジルーツの日本・中国・韓国見聞録

弁護士法人Bridge Rootsブリッジルーツ
代表弁護士 橋 本 吉 文
執筆協力 中国人弁護士 厳 逸文

【第53回】見過ごしやすい「投資総額」を活用しよう!

※本記事は亜州ビジネス2014年9月22日号に掲載されたものです。

 投資総額」とは、1980年代の中国「改革開放」の初期、外国企業の進出が認められたが、その規模を制限するために定められたものであり、「登録資本金」と異なり、中国外商投資法上の特殊なものである。日本法にない概念であるため、中国へ進出した日系企業の理解不足により、「投資総額」を重視せずに、安易に「登録資本金」と同額で設定してしまうことが多い。しかし、「投資総額」を活用すれば、様々な面において企業の利益を守ることができるため、今回は「投資総額」の意味と留意点を解説する。

1.「投注差」により外貨の借入枠が決定される
 実務上、「投注差」という言葉をよく聞くと思うが、これは「投資総額」と「登録資本金」の差額を指す。外商投資企業の中長期外貨借入の累計及び短期外貨借入残額の総額は、「投注差」を上回ってはならないとされている(外債管理暫定弁法第18条)。したがって、合弁企業が外貨を借り入れようとした際、投資総額を登録資本金と同額にしたために外貨の借り入れができず、あるいは「投注差」の枠を小さく設定したために、後悔することも少なくない。このような場合、煩雑な手続きを経て審査認可機関に投資総額変更を申請するか、やむを得ず人民元の借り入れを選ぶことになるため、企業としては不利な立場に立たされることになる。
  
2.「投資総額」により設備輸入の免税枠が決定される
 「外商投資産業指導目録」の奨励投資項目で、かつ技術移転が伴う外商投資プロジェクトにおいては、投資総額内で輸入する自社用設備、設備と同時に輸入する技術及び部品、付属品などに関する関税や輸入時の増値税が免税される(「国務院の輸入設備の徴税政策に対する調整に関する通達」第一条第(一)項)。しかし、この「投資総額」の役割を見過ごして、投資総額と登録資本金とを安易に同額に設定するケースが多い。この場合、本来受けられる免税待遇が受けられなくなるため、企業に大きな損失をもたらす可能性がある。

3.「投資総額」により審査認可機関が決定される
 「投資総額」の金額により、外商投資企業の設立や変更事項に係る審査認可機関(商務部門)及び登記機関(工商行政管理局)が異なる。近年、外商投資企業の設立・変更について、審査・承認の権限を地方に委譲する等の措置により、手続きの簡素化や規制緩和などが図られている(「外商投資審査・承認権限の委譲に関する問題についての通達」商資発[2010]209号)。しかし、投資総額が3億米ドル以上の外商投資企業又は投資総額が5千万米ドル以上3億米ドル未満の制限類外商投資企業の設立及び変更については、審査認可権限は商務部にある(下記表参照)。したがって、手続きが煩雑化し、時間とコスト負担が大きくなる。また、登記機関も北京にある国家工商行政管理総局に限定される。したがって、手続きの簡素性や業務執行の利便性などの面から、希望の審査認可機関及び登記機関を考慮して投資総額を決めるのがよい。
【表】外商投資企業の設立及び変更事項に係る審査認可機関

投資総額

奨励類

許可類

制限類

3億米ドル以上

商務部

商務部

商務部

5千万米ドル~

3億米ドル

地方商務主管部門

地方商務主管部門

5千万米ドル未満

地方商務主管部門


4.「投資総額」は勝手に決められない
 外貨の借入枠及び設備輸入の免税枠を拡大するために、当然、投資総額は高ければ高いほど有利であるが、投資総額は、登録資本金との下記比率に基づいて設定しなければならない(「中外合資経営企業の登録資本金と投資総額の比率に関する暫定規定」第3条)。
  1.  登録資本が210万米ドル未満の場合、投資総額は登録資本の10/7を上回らないこと。
  2.  登録資本が210万米ドル以上500万米ドル未満の場合、投資総額は登録資本の2倍を上回らないこと。
  3.  登録資本が500万米ドル以上1200万米ドル未満の場合、投資総額は登録資本の2.5倍を上回らないこと。
  4.  登録資本が1200万米ドル以上の場合、投資総額は登録資本の3倍を上回らないこと。
以  上