ブリッジルーツの日本・中国・韓国見聞録

弁護士法人BridgeRootsブリッジルーツ
李 武哲(弁護士)
執筆協力:金 佑樹(弁護士)

【第50回】韓国における取調べ可視化

※本記事は亜州ビジネス2014年8月11日第936号に掲載されたものです。

1.はじめに
 日本と韓国の法制度は多くの分野で似通っていますが、両国の歴史や慣習を反映した違いを見つけることができます。例えば、韓国の刑法では日本ですでに廃止された尊属殺人罪(父母等の親族の殺人の場合、通常の殺人罪より重い法定刑とするもの。日本の刑法では1995年に削除)、姦通罪(婚姻している者が姦通した場合に成立する犯罪。日本では1947年に削除)等の規定が残されています。そのほか、刑事事件の捜査や裁判手続きについても、2007年に行われた刑事訴訟法の大改正により、日本ではいまだに実現していない取調べ時の弁護人の立ち会いや録音・録画制度が法定されるに至りました。
 今回は、日本の刑事手続きを考える題材として、先に導入された韓国の上記制度をご紹介したいと思います。

2.日本における取調べの可視化
 近年、日本においても、相次ぐ冤罪事件について無罪判決や検察の不祥事等の事件により、被疑者の取調べの可視化に向けた動きが広く国民の注目を受けることとなっています。
  日本では、現在のところ取調べの可視化について法律の規定はなく、捜査機関により、一定の事件を対象として試行という形で実施されています。当初は、裁判員裁判対象事件かつ自白事件で被疑者の同意があるケースを対象にしていましたが、近時は徐々に否認事件や知的障害を有する被疑者等に範囲が拡大される形で試行が続けられています。
 これに対し、日弁連は、冤罪事件や裁判の長期化を防止するため、取調べの全過程の録画が不可欠であると提言しており、この問題については今も議論がなされているところです。

3.弁護人参与制度
 韓国では、2007年の法改正の少し前より、捜査機関は、一定の制約のもと、被疑者の取調べの際の弁護人の立ち会いを認めていました。ただ、これは法律に規定がなかったため、捜査機関による恣意的な運用の余地が残されていました。このような中、2003年11月、大法院(日本の最高裁判所に当たるもの)は、「被疑者は、取り調べを受けるに当たり弁護人の立ち会いを求めることができ、その場合捜査機関はこれを拒絶することができない」と判示し、取調べにおける弁護人の立ち会いを権利として認める判断を示しました。このような大法院の判決を受け、刑事訴訟法の改正において取調べにおける弁護人参与制度が法定されるに至りました。
 韓国の刑事訴訟法第243条の2第1項では、「検事又は司法警察官は、被疑者、その弁護人、法定代理人、配偶者、直系親族、又は兄弟姉妹の申請により、弁護人を被疑者と接見させ、又は正当な事由がない限り、被疑者に対する取り調べに立ち会わせなければならない。」と定められています。
 「正当な事由」がある場合には、弁護人の立ち会いを制限できることとされていますが、これも、弁護人が取調べに不当に介入した場合など一定の場合に限られています。

4.映像録画制度
 刑事事件の捜査の過程では、捜査機関により被疑者の供述を録取した調書が作成されますが、2004年12月、大法院において、検察官が作成した供述調書の証拠能力について重大な判断が下されました。大法院は、従来の判例を変更し、検察官作成の供述調書についても、実質的真正性が認められなければ証拠能力を認めないと判示しました。これを受け、検察は、調書の実質的真正性を証明する方法として、取調べの映像録画に積極的になったといわれています。
 韓国の刑事訴訟法244条1項では、「被疑者の供述は、映像録画することができる。この場合には、あらかじめ映像録画の事実を知らせなければならず、調査の開始から終了までの全過程及び客観的状況を映像録画しなければならない。」と定められています。
 「映像録画することができる」あるように、録画をするかどうかについては、検察官が判断することとされ、被疑者や弁護人からこれを請求できるわけではありません。また、「全過程」とありますが、これは被疑者に対して複数回行われる取調べの全てを録画しなければならないという意味ではなく、1回の取調べの最初から最後まで録画すればよいという意味とされています。

5.おわりに
 韓国における取調べの導入について、日本の弁護士会も視察をするなど、強い関心を抱いているところです。今後、日本の司法制度を考える上でも、韓国の試みは大変興味深いところです。
以 上