ブリッジルーツの日本・中国・韓国見聞録

弁護士法人Bridge Rootsブリッジルーツ
代表弁護士 橋 本 吉 文

【第49回】中国の婚姻法について

※本記事は亜州ビジネス2014年7月28日第926号に掲載されたものです。

 今回は、中国の婚姻法について解説するとともに、日本法との興味深い相違点を指摘したい。

1.婚姻法の変遷
  1.  1950年、新中国で最初の婚姻法が制定された(いわゆる「50年婚姻法」)。中国では、数千年の間、家父長制的家族制度の下、女性は奴隷的服従を強いられ、子も親に対する絶対的服従が要求された。これでは、新中国建国・中国革命の精神が貫けないとの考えから、50年婚姻法では、女性の解放・男女平等の実現、子の利益の保護が基本原則として明記された。
  2.  その後、中国では急激な人口増加が重要な社会的問題となり、人口抑制政策に重きを置かざるを得なくなった。そこで、1980年に婚姻法が改正された(いわゆる「80年婚姻法」)。80年婚姻法では、50年婚姻法を基礎に、計画出産が義務付けられた(いわゆる「一人っ子政策」)。
  3.  1990年代に入ると、中国では急激な経済発展により、男女関係・離婚観に変化が生じるとともに、社会的弱者への権利侵害が顕著となってきた。そこで、2001年に現行婚姻法が成立し、家庭内暴力、虐待・遺棄行為に対する救済規定の新設、これらの原因による離婚における無責配偶者の損害賠償請求権等が明記された。
  
2.日本法との主な違い
(1)最低婚姻年齢・成年年齢
    中国では、男性満22歳、女性満20歳以上で結婚ができ、成年年齢は18歳である。
   日本では、男性満18歳、女性満16歳以上で結婚ができ、成年年齢は20歳である。
    日本では、未成年者でも結婚すれば成年と同様の行為能力を有すると看做す制度(成年
   擬制)があるが、中国ではない。
(2)重婚
    中国では、法律婚が重複する場合のみならず、事実婚との重複も重婚となるが、日本で
   は、法律婚が重複する場合のみが重婚となる。
(3)婚姻届
    中国では、内地居住者が結婚するには、男女双方が揃って一方当事者の常駐戸籍(戸
   口)所在地の婚姻登記機関に出頭して婚姻登記を行わなければならない。また、中国公
   民と外国人(香港、マカオ、台湾、華僑を含む)とが中国内地で結婚する場合、男女双方
   が揃って内地居住者の戸口所在地の婚姻登記機関に出頭して婚姻登記を行わなければなら
   ない。
    日本では、使者や郵送によっても婚姻届が可能である。
(4)姓名
   中国では、原則夫婦別姓(双方の自主協議で、夫が妻の姓に従うことも、妻が夫の姓に従
  うことも、相手の姓を自己の姓に被せることも、さらには共同で第三者の姓を選択して名乗
  ることも、すべて認められる)。
   日本では、夫婦同姓である(夫または妻の氏を称する)。
(5)離婚手続き
   中国では、①協議離婚、②訴訟外調停制度(職場、労働組合、人民調停委員会、婚姻登記
  機関等に調停を申し立てる。訴訟外調停制度を利用するか否かは当事者の自由である)、③
  訴訟提起(但し、訴訟内調停を必ず経なければならず、その後離婚裁判となる)という方法
  になる。
   日本では、①協議離婚、②離婚調停(訴訟前に必ず調停を経なければならない)、③訴訟
  となる。
(6)離婚原因
   中国では、①重婚または配偶者を有する者が他人(異性)と同棲したとき、②家庭内暴力
  または家庭成員を虐待・遺棄したとき、③賭博・麻薬使用等の悪習を有し、度々諭しても改
  めないとき、④感情の不和により満2年別居しているとき、⑤その他、夫婦感情の破綻が生
  じている状況にあるとき、が離婚原因として規定されている。
   日本では、①配偶者に不貞な行為があったとき、②配偶者から悪意で遺棄されたとき、③
  配偶者の生死が3年以上明らかでないとき、④配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込
  みがないとき、⑤その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき、が離婚原因として規定さ
  れている。
   なお、中国では日本と異なり、妻が妊娠期間中、分娩後1年以内または妊娠中止後6カ月
  以内の場合、原則として離婚提訴ができないと規定されており、この点では日本よりも妻子
  の保護に厚いといえよう。

以  上