ブリッジルーツの日本・中国・韓国見聞録

弁護士法人Bridge Rootsブリッジルーツ
代表弁護士 橋 本 吉 文

【第45回】中国における刑事事件被害者保護について

※本記事は亜州ビジネス2014年6月9日第892号に掲載されたものです。

 中国は、西欧諸国から「人権を軽視している。もっと人権を保障しろ。」とよく指摘されている。ところが、刑事事件の被害者については、西欧諸国よりも権利が手厚く保障されている面が多々あり興味深い。今回は刑事手続きの各段階における犯罪被害者保護について解説する。

1.捜査の端緒段階
 被害者は、その人身又は財産上の権利を侵害する犯罪事実又は被疑者について、公安機関、人民検察院又は人民法院に事件を報告し、又は告訴する権利を有する(中国刑事訴訟法84条2項)。  
  
2.捜査段階
 捜査機関は、証拠として用いる鑑定結果を被疑者及び被害者に告知しなければならない。被疑者又は被害者が申立を提出した場合は、補充鑑定又は再鑑定をすることができる(中国刑事訴訟法121条)。

3.起訴段階
  1.  人民検察院は、事件を審査する際に、被疑者を取り調べ、かつ、被害者、被疑者及び被害者の委託する者の意見を聴取しなければならない(中国刑事訴訟法139条)。
  2.  公安機関が立件して捜査するべきである事件に対して立件捜査をしていないと被害者が認めて人民検察院に対してその旨を申し出た場合は、人民検察院は、公安機関に対して立件しない理由を説明するよう要求しなければならない。人民検察院は、公安機関の立件しない理由が成立することができないと認める場合は、公安機関に通知して立件させなければならない。公安機関は、通知を受けた後に立件しなければならない(同法87条)。
  3.  自訴事件(①提訴を待って処理する事件、②被害者が証拠を有して証明する軽微な事件、③被害者が証拠を有して自己の人身又は財産上の権利を被告人が侵害する行為に対して法により刑事責任を追及するべきであることを証明したが、公安機関又は人民検察院が被告人の刑事責任を追及しない事件。以上同法170条参照)については、被害者は、人民法院に対して直接に起訴する権利を有する(同法88条)。
  4.  被害者のある事件について不起訴を決定した場合は、人民検察院は、不起訴決定書を被害者に送達しなければならない。被害者は、不服のある場合は、決定書受領後7日内に1級上の人民検察院に不服を申し立て、公訴の提起を請求することができる。人民検察院は、再審査決定を被害者に告知しなければならない。人民検察院が不起訴の決定を維持した事件については、被害者は人民法院に提訴することができる。被害者は、不服申立てを経ることなく、直接に人民法院に提訴することもできる(同法145条)。
4.公判段階
 公訴人が法廷において起訴状を朗読した後に、被告人及び被害者は、起訴状に指摘された犯罪について陳述をすることができる。公訴人は、被告人に尋問することができる(中国刑事訴訟法155条1項)。
 
 日本では、犯罪を起訴・訴追する権限は原則として検察官の専権とされているが(起訴独占主義・日本刑事訴訟法247条)、中国では上記3で述べたように犯罪被害者自らが起訴できるケースを認めており、犯罪被害者の権利保護という面では日本よりも手厚いといえるだろう。

以  上