ブリッジルーツの日本・中国・韓国見聞録

弁護士法人Bridge Roots ブリッジルーツ
上海事務所 顧問 古島忠久

【第44回】「資本金が人民元だと便利か?

※本記事は亜州ビジネス2014年5月19日第877号に掲載されたものです。

 外国企業が中国内に現地法人を設立すると海外から資本金を送金することになります。この資本金は外貨(一般的にはUS$)で入れることが多いのですが、近年は人民元での出資も可能になっています。人民元で出資を行う一番のメリットはやはり為替変動のリスク軽減です。人民元で出資を行えば、その後、中国国内で人民元への両替の必要がない為、為替変動のリスクが出資時だけに抑えられます。外貨で資本金の出資を行った場合、商品代金等を支払う為に資本金を資本金口座から基本口座へ移動し人民元に両替すれば、その都度、為替リスクが発生します。実際、昨年は為替の変動が大きかった為、中国に進出している貿易関係の企業の方々から「為替差損が大きく、経営が厳しい」との話もよく聞いていたので、それなりにメリットはあるのではないでしょうか。

 しかし、本当に人民元での出資が便利なのかと考えるときがあります。弊所でも資本金を人民元で出資し中国に進出した日本企業の現地法人設立サポートを行いました。その企業の話では、中国進出を決めた後、日本国内にある本社に日本の大手銀行の方が営業に来られたとのことです。そこで、資本金を人民元で出資できることと、先で述べたような為替変動リスクの軽減などのメリットを説明されたとのことでした。その殆どがメリットの話であった為、資本金を人民元で出資すると決めたとのことでした。出資方法を決定後、現地法人設立作業に移ったのですが、人民元で出資の場合は準備する資料が少し多くなり、複雑になります。しかし、設立の準備を始めた頃は「この手間も設立してしまえば、それで済む」と思っていたようですが、本当の手間は現地法人設立完了後からでした。

 一番の難関は銀行での手続き業務です。その企業は中国国内の銀行で銀行口座を開設しましたが、人民元での出資が可能になってからそんなに日が経っていない為、その銀行の担当者がその業務に慣れておらず、事務手続き等に大変時間が掛かりました。銀行の担当者から、今回初めて外資企業の人民元での出資に関わったと後でコッソリ教えてくれました。そのような状況であった為、一つ一つの手続きに大変手間取り、時間がかかりました。手続きの都度、毎回本部へ確認の電話をしているのです。銀行滞在時間が3、4時間掛かってやっと一つの作業が終わり喜んでいると、翌日又は2、3日後に前回の手続きはダメだ、とか不備があるから追加資料を出せ、と銀行から連絡が来ます。そのようなことが何度も繰り返し続きました。その間、その企業は既に営業活動を開始していたので当然、各種の支払いや振込み業務が出て来ます。

 少し補足の説明をしておきますと、現地法人は銀行に資本金口座と基本口座を開設し、各支払いの振込みは基本口座からするのが一般的なのですが、資本金を人民元で出資した場合は資本金口座から直接支払いの為の振込みをします。この資本金口座からの支払いが手続きをより複雑にします。資本金口座から直接支払いをする為には、何の為の支払いか?ということを全て明確にし、関係する資料を揃えないと振込み手続きをしてくれないのです。

 また小口現金の引き出しは基本口座からしかできないので、現金が必要になった場合はいったん基本口座へ移動しなければなりません。【参考までにUS$で出資の場合、資本金口座から基本口座へは月の回数の制限はありますが1回5万US$(約30万元)まで移動でき、ある程度、基本口座、小口現金ともにゆとりがとれます】他の銀行でのやり方は確認していませんが、そこの銀行では資本金が人民元だという理由で、資本金口座から基本口座へは2万元までしか移動できず非常に困りました。少し大きな買い物をする為に資金を移動したいと銀行で説明してもダメ!としか言いません。それならば2万元を複数回に分けて移動できるか?と聞くと前回基本口座へ移動し、引き出した現金を使ったという証明として発票(領収書)を銀行へ提出しないと次の2万元の移動手続きはできない、と言うのです。まあ、相手(銀行)側の立場になって考えると、前例が何もないので、迂闊なことをやり、後で上司(又は上部機関)から怒られるのを避ける為ではないかと考えられますが、それでも手続きが煩雑かつ時間がかかるのは非常に不便です。

 今後、2年3年と経ちいろんな前例ができ、又銀行の人達も人民元での資本金出資の手続き業務に慣れてくるともっとスムーズに手続きが進むのではないかと予測できますが、まだまだそれには時間が掛かるのでは、と感じています。今の段階では、まだ完成していない道を自分も一緒になって完成させるという気持ちと時間の余裕が必要かもしれません。そのようなことまで踏まえて資本金を何の通貨で出資するか、を検討すると良いでしょう。

以上