ブリッジルーツの日本・中国・韓国見聞録

著:秋山理恵(弁護士)

【第39回】「転ばぬ先の労働法」 

※本記事は亜州ビジネス2014年3月10日第831号に掲載されたものです。

―第1回:ノルマ未達成従業員に罰ゲームとしてコスプレをさせた会社に対する損害賠償請求が
認められた事案(大分地方裁判所平成25年2月20日判決)―

1 事案
 被告Y1化粧品株式会社では,化粧品販売等を目的とする会社であり,原則として月に1回,新商品の勉強会や販売方法を学ぶための勉強会を目的とする研修会を実施していました。その研修会において,期間中販売ノルマを達成できなかった販売員4名に,罰ゲームとして,研修時間中の午前9時から午後6時過ぎ頃まで,特定の衣装を着用させて研修を受講させました。報道によれば,特定の衣装には,黒白のメイド服にミニスカート,浴衣に丁髷,薄手のアイドル風ワンピース等があったようですが,訴訟を提起したX(報道によると60代女性)の衣装は,「頭部には,光沢のあるピンク色を基調として黒で縁取りされたウサギの耳の形をしたカチューシャをつけ,上半身には,白い襦袢を着用し,その上には紫の長袖の小袖,さらに光沢のある青色を基礎とし襟から正面にかけての光沢のある黄色の太い縁取りがなされている肩衣を着用し,下半身には同じく光沢のある黄色の袴を着用するもの」(「 」内は判決文を引用)という衣装でした。そして,Y1化粧品の翌月の研修で,この衣装を来たXの姿が,前月の研修の様子としてスライド投影されました。
 その後,Xは心身の不調を来し,病院へ駆け込みました。病院ではうつ症状を伴う「身体表現性障害」と診断され,休職,療養を余儀なくされました。

2 裁判所の判断
 Xは,Y1化粧品,研修会を取り仕切っていた上司Y2,Y3,Y4を相手として,損害賠償請求をしました。
 Yらは,「本件研修会のコスチューム着用は,レクリエーションや盛り上げ策を目的」としており,X個人を「人格的に攻撃するものではなく」,現にXも「本件研修会において特段不満を述べていない」と主張しましたが,裁判所は,「もはや社会通念上正当な職務行為であるとはいえず,原告に心理的負荷を過度に負わせる行為であるといわざるを得」ないとして,Yらに連帯して22万円を支払うことを命じました。

3 ポイント
 本件は,Xがこの衣装を着用したのは1日だけであり,かつXは研修会の場ではこの衣装の着用を拒否していませんでした。しかし,裁判所は,会社及び上司の責任を認めています。
 本件はいわゆる「パワハラ」事案です。パワハラとは,一般的に,「同じ職場で働く者に対して,職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に,業務の適正な範囲を超えて,精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」をいいます(平成24年1月30日,厚生労働省の「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ報告」)。
 パワハラは,法律上は,今回のように,民法上の不法行為と言える場合に,会社及び上司に対し,損害賠償請求できるという形で表れます。民法上の不法行為と言えるか否かは,一般に,業務上の必要性,真の目的,部下に与える不利益の程度等に基づき判断されると言われています。
 本件において,裁判所は,
  1. Xがその場で衣装の着用を拒否することが非常に困難であったこと
  2. 別の研修会において,Xの了解なく,衣装を着用したXが写っているスライドを投影したこと
から,衣装着用が任意の罰ゲームであり,レクリエーションや盛り上げ策を目的としていたとしても不法行為と言えると判断しています。
 
4 転ばぬ先のチエ
 報道によれば,本件衣装を来たXが研修会場に登場した際,会場がドッと笑いに包まれ,大いに盛り上がったそうです。しかし,いくら盛り上がっても,このように賠償責任が発生してしまっては元も子もありません。ちなみに,Xが所属していた支店の支店長は減給処分を受け転勤となり,Y2(課長)も減給処分・降格処分を受けて異動,Y4も転勤となっています。
 これから新人社員が入社する季節。場を盛り上げる余興や罰ゲームもほどほどにしましょう。
以 上

※これまで本連載の日本法分野は,「原色日本法図鑑」と題して連載を続けてまいりましたが,2014年は心機一転,「転ばぬ先の労働法」と題して,日本法の中でも労働分野について,最新判例を中心に連載していきたいと思います。