ブリッジルーツの日本・中国・韓国見聞録

弁護士法人BridgeRootsブリッジルーツ
李 武哲(弁護士)
執筆協力:金 佑樹(弁護士)

【第38回】韓国の「同伴成長」政策

※本記事は亜州ビジネス2014年2月24日第821号に掲載されたものです。

1.はじめに
 韓国経済では、いわゆる財閥系の大企業が大きな地位を占めています。2011年の10大財閥の売上高は946兆1000億ウォン(約66兆円)で、韓国の国内総生産の76.5%にも及んでいます。韓国最大の財閥であるサムスングループに限ってみても、その比率は21.9%と、同社の浮沈が韓国経済に直結している状況が見て取れます。今年1月に発表されたサムスン電子の13年10~12月期決算で、同社の連結営業利益が2年ぶりに減益となったことが、韓国国内でセンセーショナルに報じられていたことも記憶に新しいところです。

 その一方で、韓国では従来から就業者に占める自営業者の比率が高く、飲食業等のサービス業の多くでは、中小零細業者が中心となっています。

 圧倒的な規模を有する財閥系企業が、これら中小零細企業が担っていた事業に進出した場合、中小零細企業の事業継続に深刻な打撃を与えることになります。そのため、韓国では全斗換政権以降数十年にわたり、法律に基づき指定された特定の業種について大企業の参入を制限する「中小企業固有業種制度」が設けられておりましたが、規制緩和の流れの中で2006年に廃止されました。同制度の廃止後、大企業による指定業種への参入が相次ぎ、特に小売業では大手スーパーマーケットの出店が急増したことで、伝統的な市場や中小零細小売業者の多くが経営難に陥ることとなりました。

 このような社会的格差の拡大に対する批判の高まりを受けて、韓国政府は、再び大企業に対する抑制と中小企業に対する保護へと政策の舵をきることになったのです。

2.「同伴成長」政策の強化
 2010年以後、韓国政府は大企業と中小企業の共生を強調し、様々な施策を開始しました。2010年11月には、在来市場の近隣(半径500メートル以内)への大型流通店舗出店を禁止する法改正が行われたほか、同年末には大企業と中小企業、公益代表からなる同伴成長委員会が発足しました。

 同伴成長委員会では、「中小企業適合業種」の指定勧告を行うほか、大企業の同伴成長政策への協力状況を定期的に算定、公表するなどの活動を目的としています。中小企業適合業種の指定は、大企業の無分別な進出による中小企業の経営悪化を防止するとともに、中小企業に競争力確保の機会を提供することで中堅企業への成長を促すことを目的とするとされていますが、実質的には旧来の中小企業固有業種制度の復活といえます。

 飲食店業を例にとってみると、大企業は飲食店業への新規参入のみならず、既存の事業の拡張についても自制を求められます。具体的には、新規ブランドの立ち上げが制限されるほか、既存ブランドについても駅勢圏(首都圏、広域市では、交通施設出口より半径100メートル以内)もしくは商業地域等以外での新規出店が大幅に制限されることになります。

 他の業種についても、拡張や新規参入の自制にとどまらず、事業縮小を求めるなど、様々な勧告が行われています。

 これらの規制は大企業にとって非常に厳しいものといえますが、多くの財閥系企業では社会的批判を回避するために、中小企業適合業種からの撤退や事業の縮小を表明するなど、政府の方針に従う姿勢を示しているようです。

3.おわりに
 韓国の同伴成長政策については、韓国国内でも、中小企業に対する過剰保護であり、かえって競争力をそぐことになるとの批判や、大企業の参入による産業の近代化・効率化といったプラス効果を阻害するとの批判も根強くあります。また、中小企業適合業種の指定に伴う規制は、主として韓国国内の大企業を対象にしているため、韓国企業の事業縮小等によって空洞化した市場をみすみす外国企業に奪われるおそれもあります。現に、大企業の参入を防いだ照明分野について、外国系企業が国内電球市場の70%を確保したという実例もあります。

 ここ数年、新規出店の制限を受け、人員縮小や事業縮小などを進めている韓国企業をしり目に、日本の外食チェーンが次々と韓国の外食市場に参入しており、着実にシェア拡大を続けています。

 今後、韓国政府が現行の同伴成長政策を緩和していくのか、それとも規制の網を外国企業にまで拡大していくのか、行方に注目したいと思います。
以 上