ブリッジルーツの日本・中国・韓国見聞録

著:大塚陽介(弁護士)

【第35回】TRADING CARD 原色日本法図鑑
日本法0009 / 医療法

※本記事は亜州ビジネス2013年12月2日第768号に掲載されたものです。

解説:
医療法の骨格  医療に関する法律というと「医療行為は医者しかやっちゃいかんよ」なんて法律かな?とか思うところだが、それは医師の資格等を規定する「医師法」の話。「医療法」は、我が国の医療体制の基本を定める法律で、主に①医療機関の組織・運営等の規制と②国や都道府県等が医療提供体制の構築に関して果たすべき責務等について規定している。医療を担う医療機関や行政等の基本事項を定めることにより、我が国の医療体制を充実させようというわけだ。

医療機関の種類  医師がいるところは何でも「病院」と呼びたくなるが、法律上、病院とは「20人以上の患者を入院させるための施設を有するもの」(1条の5第1項)に限定される。要するに、病床数(ベッド数)20床以上の入院施設がないと「病院」にはなれず、入院施設がなかったり、あっても19床以下なら「診療所」となる。規模が大きくないと「病院」を名乗ることはできないのだ。そのほか、医療法は「介護老人保健施設」やら「助産所」なんかも定義しているので、興味がある人はご覧あれ。

病床規制のインパクト  医療法第五章は、「医療提供体制の確保」として主に都道府県や公的医療機関の責務等を規定するが、中でも重要なのが「第二節 医療計画」だ。医療計画とは、都道府県が地域医療の整備等に関して種々の事項を定めるもので、医療機関の命運に直結する「基準病床数」の割振りも含まれる。要するに、当該地域の「あるべきベッド数」だ。
 他方、病院なり有床診療所なりの開設・増床は許可制がとられていて、都道府県知事は、医療計画の達成のために特に必要がある場合には、許可申請者に対して「やめとけ」という勧告を出すことができる(30条の11)。勧告に従わない場合には、厚労大臣が保健医療病床の指定を除外できちゃうので、医療機関にとっては死活問題となる(日本では健康保険が使えないベッドなんかに入院する患者はいないもんね)。この制度は、「病床規制」とか「病床の総量規制」などと呼ばれてるが、既存病院の既得権益を保護する悪徳制度だ!等と叩かれていて、何かとトラブルの多い制度でもある。新規病院開設の際のネックになる部分で、慎重な対応が必要。巷では行政訴訟なんかも起こされたりしているぞ。

医療広告の規制  医療法には、病床規制のほか、医療に関する情報提供(行政や患者等に対する提供)や、医業(歯科医業や助産師の業務等も)に関する広告の規制も規定されている。広告が許される内容は医療法6条の5第1~13号に列挙されている項目のみに限定されており、医業に関する広告を行う場合には慎重にやらんといかん。何が許されて何がダメなのかは、けっこう分かり難い。厚労省から「医療広告ガイドライン」なんかも出てるから、要チェックや。

医療機関の開設者  我が国では、医療の非営利が原則とされていて、誰でも自由に医療機関を開設できるというわけじゃない。(なお、開設者とは、医療機関の開設・経営の責任主体であり、非常に不正確な説明ながら、要するに「病院のオーナー」みたいなものと思ってもらえればよい。)医療の非営利原則の中身についてはいろいろ議論があるものの、要するに、医療機関の開設者は原則として非営利法人か医師(歯科医業なら歯科医師。以下同様)に限られる。株式会社のような営利法人は病院を開設できないのだ(例外はある)。そんなわけで、我が国の医療機関は、医師個人か「医療法人」が開設者となっているものがとっても多い。

医療法人の組織  医療法人とは、病院等の医療機関の開設(や所有)を目的とする法人(社団・財団)のことであり、医療法第六章に規定されている。語弊を恐れずに言えば、要するに「病院等を経営するための会社」みたいなものだ。医療法人(通常は社団が多いので、以下、社団に限った説明)においては、社長に相当するのが「理事長」、取締役が「理事」、株主が「社員」となる。医療法人のクライアントと付き合っていると、理事長とか理事はガッツリ重視されてるんだけど、たまに「アレ?ウチの社員って誰?そんなヤツいたっけか?」みたいな話が出たりしてビックリする。社員は株主みたいなもんだから、ここをしっかり押さえておくことが一番重要だという点を忘れずに。

あやふやな医療法人の世界  このように、医療法人は医療業界の会社みたいなものなのだが、会社の組織を規定する会社法が1000条くらいあるのに比べて、医療法人を規定する医療法第六章は70条程度しかない。そのため、法律それ自体ではなく、厚労省の公表するモデル定款等が事実上の法律のような役割を果たしていたりする(モデル定款から大きく外れると医療法人設立の認可が得られなかったりするので、大体どの医療法人でも同じような定款になってるのだ)。
 また、医療法人M&Aなどという言葉が横行し、もはや行政にも定着しているような状況だが、医療法人は非営利性・公益性が特徴なのであって、買収などという概念には本来的に馴染まないはずものである。そのため、法律的にはイマイチ意味の分からない契約書が締結されたりして、後からトラブルになる事例も少なくない。
 さらに、法改正により出資持分のある医療法人は設立できないようになったが、実際は医療法人のほとんどが出資持分のある医療法人であり、この意味でも法律関係が分かりにくくなっている。相続や税金等の問題も相俟って、曖昧な情報がまことしやかに囁かれてるのを耳にすることも多い。
 以上のような状況こそ、この業界に詐欺師とも言うべきような方々が散見される所以なんじゃないかと感じる。言葉の意味は分からんがとにかくカッコいいフレーズだとか、甘い言葉だとかに流されず、法律的な観点から地に足ついた検証を怠らないことが肝要だ。

ハンドリング  医療は我が国でも非常に重要で広範な事業分野を占めるが、これを規律する法律は他の業界に比べても大雑把感が否めない。裏を返せば、行政指導やら通達行政やらといった、言わば「阿吽の呼吸」や信頼・信用なんかが重要になってくると言い得る。先例は非常に重要だが、地域毎の特色も強く、何事も一筋縄ではいかない業界と言える。医療法や同施行令・施行規則を押さえるのは当然だが、厚労省のガイドラインや行政運用等もしっかりチェックした上での対応が求められる。大変だけど、頑張れ。

 医療法とは、そういう法律である。

※ 本稿は、あくまでも一般的な法解釈の動向のご説明にとどまるものですので、いかなる意味においても、法的見解を表明し、あるいは法的助言や鑑定等のサービスをご提供するものではありません。