ブリッジルーツの日本・中国・韓国見聞録

弁護士法人Bridge Roots ブリッジルーツ
上海事務所 顧問 古島忠久

【第32回】「トラブルは儲かってくると起こる」

※本記事は亜州ビジネス2013年10月21日第739号に掲載されたものです。

 中国への進出形態には、外資独資企業、中外合弁企業、中外合作企業、中国人名義での設立、などいろいろありますが、事業が上手く回りだしてある程度の利益が出てくると、今まで起こらなかった問題に衝突することがあります。経験上、その中で問題が発生しやすいのは中外合弁や中外合作企業、中国人名義での設立なのでは?と感じています。

 勿論、上手くいっている企業も多いと思いますが、私のところに相談に来られるのは、実は先のような進出形態企業が多いです。相談内容は単純です。利益が出て、その配分等で問題になるのです。当然設立当初にそのような決まり事をしていると思いますが、キチンと文書に残していなかった、或いは協議書の内容が曖昧だったなどが主な原因です。時には悪質で、財務部門や総務部門を相手方に任せていたら財務帳簿をごまかされていた、と言うこともあります。儲かってくるまでは相手側も此方側の協力(技術やノウハウ)が必要であり、また資金を出して貰わないと困るのでかなり親切に接してくれます。また、利益が出ていないので揉める要素が比較的少ないのです。そのような相手側の対応に慣れていた人たちは相手側を疑うことがありません。ところが利益が出てきた途端に相手の対応が変わりビックリした、と相談に来ます。

 その他、何かしらの理由で中国人名義にて設立したという企業でも、同じような問題が起きて慌てて相談に来ます。この場合は特に複雑です。基本的にはその企業は出資名義人(出資者)のものであり、相手が「これは全て自分の利益だ」、と主張すればそれを覆すことは簡単ではありません。当然それなりに信用できる人を代わりに立てていると思いますが、それでも儲かってくると問題になることがあり、相談に来られる人たちは皆、同じことを言います。「アイツは信用していた…」、「アイツがこんな奴だとは思わなかった」などです。

 当初は本当に良い人だったかもしれませんが、ある時(利益が出てきた時)に考えが変わるのではないでしょうか?自分(出資名義人)の懐に入ってきた利益なのに、何故他人(本当の投資者)にお金をあげないといけないのか?と疑問を持ったのかもしれません。実際このような問題で裁判になり、本当の投資者が負けた、と言う話も聞いたことがあります。

 そこで如何すれば良いか?当り前のことですが他人名義で設立しないことが一番です。弊所にも偶にそのような形態の設立相談がありますが、先に述べたように自前での設立を勧めます。一番問題なのは問題が起きうる状況をわざわざ自分で作ることです。問題が起きうる状況を自分で作っておきながら問題が起きたのであれば、それは自分の責任と言えるでしょう。

 また合弁や合作をする場合でも、下手にケチらず、最初から専門家(弁護士事務所、会計事務所、コンサルティング会社等)を交えて相手と交渉した方が結果的にトラブルになる確率が下がるのではないかと感じています。

 最後に、以前の寄稿にも記載しましたが、日本人は良いようにいえば性善説の人が多く、また、相手を信用しないと仕事にならないので、ある意味仕方がないかもしれません。しかし、一番重要なのは問題を起こさせない状況を作ることではないでしょうか。これは簡単ではなく、難しい課題です。

以 上