ブリッジルーツの日本・中国・韓国見聞録
【第26回】韓国における電子裁判

弁護士法人BridgeRootsブリッジルーツ
李 武哲(弁護士)
執筆協力:金 佑樹(弁護士)

※本記事は亜州ビジネス2013年7月26日第681号に掲載されたものです。

1.はじめに
 みなさんは、日本の裁判手続きにおいて訴状や証拠など大量の書面がどのように提出・管理されているか御存じでしょうか。
 訴訟の当事者及び代理人は通常、裁判所と相手方に紙ベースで各種書面を提出します。少量の書面についてはファクシミリを利用することができますが、大量の書面や、写真など鮮明さが要求される証拠書面については、持参ないし郵送で相手方に届けなければいけません。
 当事者・裁判所間でやり取りされた書面は事件記録に綴られますが、争点や当事者が多く、大量の証拠が提出されるような事件については、記録の量は膨大になります。私たち弁護士は、ときにはスーツケースいっぱいに詰まった事件記録を抱えて、各地の裁判所を飛び回ることもあります。
 多くの法律事務所では事件終了後も5年程度の期間を定めて事件記録を保管していますが、増え続ける事件記録の保管スペースの確保に苦慮しています。
 このような裁判関係の書類に関する様々なコストについては、最終的にはクライアントのご負担となっているのが実情です。この点、お隣の国韓国でも日本と同様の状況が続いておりましたが、近年、裁判手続きが大きな変容を見せているようです。

2.韓国における電子裁判の開始
 2010年2月26日、民事訴訟手続きの電子化に関して、「民事訴訟等における電子文書の利用等に関する法律」(以下「電子裁判法」といいます)が制定されました。そして、同年4月26日より、特許訴訟について、電子的に受け付けたものから、電子裁判制度が開始されることとなりました。 
 その後、2011年より、特許訴訟だけでなく、通常の民事裁判手続きについても電子裁判手続きが導入されました。もっとも、刑事事件については、情報流出のおそれなどの理由から、電子裁判手続きから除かれています。

3.電子裁判の概要
 では、具体的に電子裁判とはどのような手続で進められるのでしょうか。
 訴訟を提起しようとする人は、まず、専用のサイトで利用者登録を行います。その際、本人確認のための電子認証が必要となります。利用者は、当事者名、請求の内容等を入力し、証拠等はPDFデータで送信します。被告は、提出された訴状に対し答弁書を提出することとなりますが、紙で答弁書を提出することも可能です。しかし、紙の答弁書が提出された場合にも、裁判所ではこれがスキャナーで電子化されて記録が作成されることとなっています。
 実際の裁判の場面では、裁判記録が電子で保存されていることから、原告被告から提出された書面が法廷内に設置されたスクリーンに映し出され、これを裁判官や当事者だけでなく、傍聴人も見ることができます。また、当事者も、裁判所のサイトにアクセスすることにより、裁判所で保管されている訴訟記録を閲覧したり、ダウンロードすることが可能です。最近では、スマートフォン等のモバイル機器でも訴訟記録を閲覧できるようになりました。

4.今後の展望
 韓国の電子裁判手続きは、主に、裁判の当事者に対する司法サービスの充実を目的に進められています。電子化により、当事者は簡単に訴訟記録を見ることができ、訴状等も提出することができることとなります。もっとも、韓国の電子裁判手続きはまさに始められたばかりであり、今も利便性の向上のために様々な試みが行われているところです。これまでの紙による手続に慣れ親しんだ弁護士が電子化に対応するためにも相応の時間は必要と考えられため、電子裁判手続きが成功したかを判断するには、もう少し時間をおいて見てみる必要がありそうです。

5.おわりに
 韓国における電子裁判手続きの導入について、日本の裁判所や弁護士会も視察団を送るなど、強い関心を抱いておりますが、現時点では具体的な動きはありません。今後、国民の司法へのアクセスを充実させるため、日本の司法制度を考える上でも、韓国の試みは大変興味深いところです。
以 上