ブリッジルーツの日本・中国・韓国見聞録

【第24回】「決定する人は誰か?」

弁護士法人Bridge Roots ブリッジルーツ
上海事務所 顧問 古島忠久

※本記事は亜州ビジネス2013年6月17日第653号に掲載されたものです。

 中国で会社を経営している中国人の知人達から時々聞かれることがあります。「中国内の日系企業は誰が決定権を持っている?」中国国内企業では当然、総経理、又は董事長が決定権を持っていると考えられています。中国国内企業の中小企業では董事長兼総経理ということも珍しくなく、誰が決定者なのかがはっきりしています。当然そのような人達が会うと話しが早いのですが、中国内の日系企業では全てとは言いませんが一部には総経理の肩書を持っていても何も決められない?決めない?人もいます。それは日本本社が権限を渡していないのか?或いは総経理自身がその重圧を避けるためにあえて本社へお伺いをしているのか?は外部からでは分かりませんが、中国人経営者達からは不思議な目で見られています。

 ここで少し中国人の考え方を述べますと、大事な交渉や話しを前に進めたいときには中国企業は決定者が交渉に参加します。(事前にどのクラスの人が来るかで進展度合いを考えている。)だから話しの進展が早く、また決定者同士が参加しているのでその場で結論がでることも多いのです。私の知人の中国人老板(オーナー)も「中国ではスピードが大事、レスポンスの悪い人とは付き合いたくない。時間の無駄だよ!」が口癖で、「先ずは進めてみる、後はやりながら考える。」や「ダメだと思えばその時引いたら良い。」とも言っておりました。この20年の中国の急激な発展を考えると、このような考え方が必要だったかも、なるほど、と思う部分もあります。只、日本企業の文化とは確かに少し違いを感じます。しかし日系企業も中国国内で勝負するのであれば、ある程度の現地の考えた方も理解しなければなりません。そのような考えを持っている中国人経営者との交渉で、日系企業だからといって総経理が参加しているにも関わらず、「何も決めない、全て話しを持ち帰って本社へ報告する。」としか発言しなければ、次回からの交渉に中国人経営者は参加しないかもしれません。中国人経営者の考えは自分が参加するのだから、相手も決定できる人が参加するべきだ、です。100歩譲って、話しを持ち帰って良いとしても、その後の返答に時間がかかるのも問題です。

 私は過去にこのような経験があります。ある日本企業の中国国内での事業拡大のサポート業務をしましたが、その業務は中国国内企業と協力して事業をするというもので、何度も日本からの出張者や中国内の現地子会社の総経理と中国企業と交渉しました。毎回、日本側の交渉の最後の言葉は「今日の話しを持ち帰って後日連絡します。」でした。その持ち帰った話しの明確な回答もしないまま、次の交渉になります。そのような事が何度か続くと、遂に相手の堪忍袋の緒が切れたのか、その中国企業は交渉を打ち切りました。これは極端な例ですが、皆さんも心当たりがないか?考えて頂ければと思います。

 最後に私は過去に何度か中国の各開発区の日本視察や日本での投資セミナーの為に、中国人関係者の方々と一緒に日本へ行ったことがあります。その日本でのアテンド中、特に印象に残っている言葉があります。その言葉は「日本人は決めるのも遅いが、道を歩くのも遅い。」と言い、更に「中国人は歩くのも決めるのも早い!だから発展も早い!ハハハ」と言っておりました。この言葉の意味を深く考えさせられました。
以上