【第19回】ブリッジルーツの日本・中国・韓国見聞録

著:大塚陽介(弁護士)
執筆協力:三浦紗耶加(弁護士)

TRADING CARD 原色日本法図鑑
日本法0005 / 不正競争防止法

※本記事は亜州ビジネス2013年4月8日第606号に掲載されたものです。

解説:
不正競争の5類型  不正競争防止法とは、文字どおり経済社会における不正な手段による競争を防止するための法律であるのだが、これだと何の説明にもなっとらんので、もうちょっと詳しく説明しよう。不正競争防止法が企図している「不正競争の防止」とは、ざっくり言って、①ニセモノ対策、②IT関連不正対策、③営業上の信用保護、④営業秘密保護、⑤国際ルール遵守、の5類型だ。これらの5類型の網に引っかかった不正競争については、被害企業側から、当該不正競争によって被った損害(けっこう巨額になることは容易にお分かりいただけよう)の賠償請求や差止請求、新聞等への謝罪広告の掲載請求等ができたり、あるいは、お上から刑事罰が科されたりする。

企業法務界のエクスカリバー?  さておき、賢明な皆様であれば、5類型の字面を見るだけでも、多くの元気な社長さんが飛び付きたくなるようなマジックワードが並んでいることに気付いていただけるだろう。元気な社長さんたちにとっては、ライバル企業の全ての商品が自社商品のニセモノであり、ライバル企業の全ての行為が自社の営業上の信用を毀損しているのであり、自社のノウハウの全てが営業秘密なのである。だが、考えていただきたい。巨額の損害賠償請求や差止請求(←事業を止められてしまったりするので被害甚大)、謝罪広告の強制など、ライバル企業を木端微塵に吹き飛ばすような強烈な攻撃力を秘めている以上、不正競争防止法がそんなに簡単に発動できるもんじゃないということは、想像に難くないはずだ。強大な力を持つ剣がいかにも簡単に引き抜けるが如くすぐ目の前の石に刺さっているのに、実際に使おうとすると意外と引き抜けない。個人的には、不正競争防止法にそんなイメージを持っている。

①ニセモノ対策  典型的には他企業のブランド名や商品表示、商品形態等をパクって儲ける行為である。このような行為は何のコストも負わずに他企業の成果にタダ乗り(=フリーライド)するセコくてアンフェアなものだから禁止よ!というわけだ。ただ、そう言うと、「タダ乗りを禁止するなら、商標とか意匠とかの制度があるじゃんよ」という素朴な疑問が浮かぶかもしれない。でも、不正競争防止法は、例えば、商標として未登録でも広く世間に知れ渡ってるブランド名であるとか、商品サイクルが短いためいちいち意匠登録するヒマやカネがないおもちゃやファッション品であるとかいった、いわゆる産業財産権(特許、実用新案、意匠、商標等)で保護されない隙間部分についても、フリーライドを禁止しているのだ。他方で、隙間部分まで保護される代償として、無茶苦茶クリソツだとか、自社のブランド名が超有名だとか、そういった条件が必須となる。発動要件のハードルが非常に高いのだ。
 また、そのほかにも、不正競争防止法は商品の原産地やら品質等を誤認させる表示行為等も禁止している。これもやっぱりニセモノと言えるもんね。

④営業秘密保護  ②や③は後にして、重要なのはこの営業秘密。他企業の営業秘密を不正な手段(窃盗や詐欺等)でゲットしたり、不正にゲットされたことを知ってるのに入手したり使用したりした場合には、不正競争として厳しいサクションが下される。ただ、営業秘密と認めてもらえるハードルが高いのなんの。ⅰ)秘密管理性=秘密として管理されていること、ⅱ)有用性=事業に有用な情報であること、ⅲ)非公知性=公然と知られてないこと、の3要件をバッチリ満たさなくちゃならん。特に問題となるのがⅰ)秘密管理性で、部長の席の後ろの本棚に鍵もかけずにフツーにしまってある程度の書類は「秘密として管理されている」とは認められないことが多い。一般に、「情報にアクセスできる者を制限していること」と「情報にアクセスした者が秘密であると認識できること」が、厳格に要求されるのだ。このあたりについては経産省のウェブサイトでガイドライン等がゲットできるから、要チェックや。

営業秘密保護の重要性  なお、「そんなに重要なノウハウなら、特許とか取ればいいじゃん」とか言いたくなるが、何でもかんでも特許出願!という考え方はクレバーではない。例えば、“ラーメンの秘伝のタレのレシピ”みたいに誰でもマネできちゃうようなノウハウだと、特許を出願してメデタく登録(=公開される)されて喜んでたら、一般家庭でみんなマネしちゃって誰もラーメンを食べに来てくれなくなってしまった、なんてこともあり得る(家庭内でマネするのは特許侵害にならない)。こうしたノウハウなんかは、特許等による保護に馴染まず、ひたすら厳重に秘密にすることによって得られる営業秘密としての保護のほうが適している。また、そもそも特許や実用新案等が取れる見込みのないような単なる営業情報なんかは、営業秘密として守ってもらう必要がある。

残りの②と③と⑤  ②IT関連不正対策には、コンテンツのプロテクト(コピーガード等)を無許可で取っ払うような装置を販売するパターンや、他企業のブランド名や商品表示等と同一ないし類似のドメインを不正な目的で取得するパターンがある。③営業上の信用保護は、嘘をついてライバル企業の信用を害する行為が対象で、例えば、「あそこの会社はウチの特許を侵害してんぞ!」などと触れ回ってみたが実際には侵害などなかったような場合だ。これらの行為も不正競争として禁止ね。
また、⑤国際ルール遵守とは、我が国と外国との間の「お互いにこういう行為は禁止しましょうね」との約束(条約)を実際に法律化したもの。外国の国旗や国際機関(国連とか)のマーク等の商用使用や、外国の公務員へのワイロ等が禁止されている。

ハンドリング  不正競争防止法は強力な武器だが、発動要件がツライ。ニセモノ対策については、あくまでも“最終兵器不正競争防止法”と考えるべきで、重要な商品表示とかは事前に商標登録しておくに限る。また、営業秘密については、ちゃんと秘密として管理することが超重要。少なくとも鍵をかけて情報管理し、こんふぃでんしゃるぅ~!とか表示しちゃったりして、アクセスが許される役職員との間ではNDA(Non-Disclosure Agreement=秘密保持契約書)なんかも交わしておこう。また、秘密としての厳重な管理状況を後日の裁判でも立証できるように、保管状況の写真を撮っておくなど、証拠化しておくことも有効かな。
 不正競争防止法とは、そういう法律である。

※ 本稿は、あくまでも一般的な法解釈の動向のご説明にとどまるものですので、いかなる意味においても、法的見解を表明し、あるいは法的助言や鑑定等のサービスをご提供するものではありません。