ブリッジルーツの日本・中国・韓国見聞録
【第17回】合弁企業の主な問題点

                   弁護士法人Bridge Rootsブリッジルーツ
                         代表弁護士 橋 本 吉 文

※本記事は亜州ビジネス2013年3月11日第589号に掲載されたものです。


1.合弁パートナー間には、何故トラブルが多いのか?
 合弁企業においては、通常、日中双方から董事、総経理、副総経理、その他の高級管理職が派遣されるが、彼らは、合弁企業の経営責任者であるとともに、派遣母体である合弁各方の利益代弁者という二重の立場を有している。   
 そのため、合弁企業の経営責任者は、どうしても派遣元の利益を重視する傾向にあり、これが合弁パートナー間にトラブルが発生しやすい原因である。

2.合弁パートナー選定の重要性
 合弁企業が成功するか不成功に終わるかは、合弁パートナー選定にかかっていると言っても過言ではない。合弁企業の最大のメリットとして、製品販売ルートを確保できる点が挙げられるが、中国の国有企業等は、日本側からの出資を確保するために、自己の販売能力を過大に述べることも多い。
 そこで、合弁相手の選定の段階で、現地の経営コンサルタント会社や弁護士事務所等に合弁パートナーの詳細につき調査を依頼することが重要である。

3.出資未了の問題
(1)日本においては、会社設立時には資本金全額が払い込まれていることが必要であるが、中国においては、合弁企業法により、会社設立後(営業許可証取得後)の一定期間内に払い込みが要請されているのみであり、しかも分割の払い込みも認められている。そのため、合弁パートナーが合弁企業の運営に熱心でない場合には、資本金の払い込み期限を徒過し、会社存続が危うくなる場合もある。
 ここにおける最大の注意点は、出資未了の間は、合弁企業は法人として の実態を完備していないため、合弁企業の債務について出資者が直接責任を負わされる可能性もある点である。その旨の判例もある。
 そこで、①合弁パートナーの出資状態及び出資能力について慎重に調査、監督する、②合弁契約書において、出資未了の場合の損害賠償責任規定を置く等の対応をしておく必要がある。
(2)合弁企業の資本金額は、設立時に申請し、批准された金額で確定されるから、設立にあたって現物出資を行う場合に、批准された投資金額と出資された現物の評価額が一致しないときには、出資未了の状態となる。
 このようなときには、追加払い込みをしなければならないが、中方の現物出資についてこのような問題が生じた場合には、追加払い込みが困難な場合が多く、日方が払い込む、あるいは日方から中方への資金貸し付けを行う等の負担を強いられるおそれがある。
 そこで、合弁契約書の作成にあたり、現物出資の評価について予め鑑定評価を受けておかねばならない。

4.董事会について
 日方主導の経営を確保するためには、少なくとも日方が董事数の過半数以上を確保する必要がある。
 ここで、注意すべきことは、合弁契約書や定款に、「中方の董事が出席しなければ、董事会は開催できない。」旨の規定を入れないことである。このような規定を入れると、たとえ日方が董事数の過半数以上を確保した場合であっても、中方は気に入らない議題の場合に欠席をし、結局議決に至らない場合があるからだ。 
                         以  上