ブリッジルーツの日本・中国・韓国見聞録

【第8回】「ところ変われば」
 

弁護士法人Bridge Rootsブリッジルーツ

上海事務所 顧問 古 島  忠 久

 

※本記事は亜州ビジネス2012年12月3日第527号に掲載されたものです。

 

  1.  早くから中国(特に都市部)に進出した工場の中には、中国の発展に伴い、頭の痛い新たな問題を抱えるようになったところも多いです。すなわち、進出時は何も無かった地域が急激な発展により、地下鉄が通り、高速新幹線が通り、それに伴い当該地域が商業化されていき、工場は郊外への立ち退きを強要されるという問題です。数年前、上海でも大規模な移転問題が発生しました。当時ほど大規模ではないですが、現在も地域によっては移転問題が発生しており、弊所に相談される企業も少なくありません。 
  2.  工場の移転は、工場の新規設立より複雑です。移転期間中も現在の工場を運営しなければなりませんし、また移転先の従業員教育もしなければなりません。期間も長期間かかります。私も何度か工場移転案件に関わりましたが、総経理達はみな精神的・肉体的に疲弊していました。移転の流れとしては、先ず地元政府関係者より口頭又は通知書によって立ち退き要求がきます(口頭の場合は通知書を発行するよう要求しましょう)。その半年から1年後に動きが活発化し、政府関係者やその地域の開発業者が直接工場へ立ち退き交渉の接触に来ます。中国の土地使用権は原則国有ですから、政府関係者から要請されれば原則立ち退くしかありません。ゴネても結果的に良くはならないことが多いです。私は立ち退き現場で、一貫してゴネていた企業の周辺の立ち退きが進み、最終的にそのゴネていた工場へ通じる道がレンガで塞がれているのを見ました。これは極端な例ですが、経験上政府に協力する姿勢を見せた方が得策です。もっとも、工場移転で大幅な赤字にならないよう、政府に協力する姿勢を見せつつ、主張・要求する点はキチンと伝えることが肝要です。政府は交渉開始時には驚くほど低い金額を提示してくることが多いです。この提示に対して理論的に反論していき、立ち退き金額を上げていきます。交渉においてどのように金額を引き上げていくかがポイントなのですが、この部分は企業秘密とさせていただきます(笑)。
  3.  また、移転を円滑に完了するためには、ある程度の移行期間をとる必要があります。移転場所がそれほど遠くなければ順次移動させていくという方法も可能ですが、区が変わる、また省が変わるとなればより複雑です。中国で工場運営されている方はお分かりだと思いますが、地元の従業員(特に管理部門)は現在の場所を離れたがりません。ワーカークラスの従業員は元々外地から出稼ぎに来ている人が多いので、条件が悪くなければ移転先にも行ってくれるでしょう。最終的に現工場から新工場へ移動しない従業員に対しては整理解雇をしなければなりません。これがまた頭の痛い問題ですが。地元政府の要望でこうなったのですから、整理解雇については地元政府にも協力してもらいましょう。
  4.  最後に、今夏、国家税務総局より政策的立ち退きに係る企業所得税に関する文書が公布されました。簡単に言いますと、移転に伴う費用を受領した場合、移転費用の所得を管轄税務局に一定の期限までに届け出なければなりません。ここで注意しなければならないのは、受領した移転費用で新たに土地を取得せず、緊急避難的に貸工場(レンタル工場)で業務運営を行っている企業です。現在も受領した移転費用が残っていると思いますので、税務上問題がないか確認した方がよいです。この問題に限らず、弊上海事務所では移転問題全般についてサポートしていますので、お気軽にご相談ください。
以上