ブリッジルーツの日本・中国・韓国見聞録

【第10回】比べてみよう日韓在外投票制度
 

弁護士法人Bridge Rootsブリッジルーツ

弁護士 李   武 哲

 

※本記事は亜州ビジネス2012年11月5日第507号に掲載されたものです。

 

1.選挙シーズン到来

  今、韓国では12月19日の大統領選挙に向けて、激しい選挙戦が繰り広げられております。一方、日本でも、2013年7月に衆議院、同年8月に参議院が任期満了を迎えるため、来年はダブル選挙が予定されております(衆議院については年内解散などと囁かれておりますが・・・)。

  日韓関係が深刻な局面を迎えている現在、両国のリーダーを決めるこれらの選挙は、東アジアをビジネスの舞台にする私たちにとって、極めて重大な節目となります。

  そこで、今回は、両国の在外投票制度についてご紹介したいと思います。
 

2.日本の在外投票制度

  日本では、平成10年の公職選挙法の改正により、在外投票制度が創設されました。当初、在外選挙の対象は、比例代表選出議員選挙に限定されていましたが、最高裁判所の違憲判決を受けて、平成18年に公職選挙法が一部改正され、現在は選挙区選出議員選挙やこれに関わる補欠選挙及び再選挙にも対象が拡大されています。

 

3.韓国の在外投票制度

  韓国では、1960年代に在外投票(但し、海外不在者投票に限定)が制度化されておりましたが、1972年に廃止されてしまいました。これに対し、在外韓国人らが選挙権の保障を求めて、1997年に韓国憲法裁判所に審判を請求しましたが、①韓国の判例上、北朝鮮の住民や朝鮮総連系の在日韓国人についても大韓民国国民として認められており、これらの者の選挙権行使は分断国家の性質上、妥当ではないこと、②納税、兵役等の国民の義務と選挙権は不可分であること、などを理由に当時の公職選挙法は合憲であるとの判断を下しました。その後も、在外投票の制度化を求める運動は継続し、2007年に至って、ようやく憲法裁判所は公職選挙法について違憲とする判断を示し、同法は2009年に改正されました。これにより、在外韓国人は、大統領選挙及び国会議員選挙(但し、比例選出に限定)への投票が可能になりました。

  

4.日韓の在外投票制度の比較

  韓国では、分断国家であるがゆえの問題をはらみながらも、近年、ようやく在外投票制度が確立されました。その際、IT先進国としての威信を示すためにインターネット投票を導入すべく議論が尽くされましたが、不正防止が困難であるとして見送られてしまいました。唯一、選挙人登録に関して、在外公館に出頭することなく、所定の書面をインターネット経由で送信することによる登録を可能とした点で、日本の制度よりも利便性が高いものといえます。
 

5.在外投票のインパクト

  韓国では、在外投票制度の導入に関し、在外有権者1人当たり1万円の予算を組んでいるとの噂があるほど、積極的な取り組みが行われてきました。 

なぜなら、韓国の総人口約4800万人に対し、在外国民が300万人以上と、在外国民が占める割合が日本に比して非常に大きいため、在外投票の行方が、選挙の結果に重大な影響力を持つからです。現に、盧武鉉大統領を選出した2002年の選挙時の得票差が約57万票、金大中大統領を選出した1997年の選挙時の得票差が約39万票の僅差であったことに照らすと、約223万人の在外有権者の投票行動の持つインパクトは極めて大きいものと言えます。

一般的に、在外投票においては保守派が強いというのが定説ですが、今回の韓国大統領選ではどのような結果になるでしょうか。今回は、制度の沿革を中心に堅苦しい内容となりましたが、韓国大統領選ウォッチングの参考にして頂けると幸いです。

 

 以 上