ブリッジルーツの日本・中国・韓国見聞録

【第8回】「ところ変われば」
 

弁護士法人Bridge Rootsブリッジルーツ

上海事務所 顧問 古 島  忠 久

 

※本記事は亜州ビジネス2012108日第487号に掲載されたものです。

 

最近、弊上海事務所は移転をし、それに伴い銀行口座も新事務所近くの支店に変更しました。その一連の手続きの中で、「日本と中国とではこういう点でも考えた方が違うのだな」と感じました。

 

中国での企業基本口座の変更は、銀行に1回手続きに行けば全て終了するのではなく、先ずは元の銀行口座の閉鎖手続きをする必要があります。これまで利用していた支店が存在する区の大元の支店(その銀行は上海市各区毎にその区内の支店の手続きをする大元の支店がある)に閉鎖手続きの予約を取り、大体1週間後に指定されます。その予約日に閉鎖手続きに行き、約1週間後に閉鎖手続き終了の通知を貰い、その閉鎖通知を持って新しく開設したい銀行支店に行きます(上記と同様、その区内の大元支店に行く)。そこで開設手続きの予約を取るのですが、その開設銀行の最初の回答は「2か月後」とのこと。理由は開設手続きには2時間~2時間半かかるので1日に数社しかできないとのことでした。それでは弊所も業務にならないので、「何とか早くできないか?」といろいろ交渉し(中国では何事も交渉が必要です!)、「支店が違うだけで移転前も同じ銀行であった」ことを強調すると、何と開設手続予約日が2か月後から1週間後に短縮されました。予約日に開設手続きをし、口座が使えるようになるのに更に1週間。閉鎖手続きを始めてから約1ヵ月掛かかりました。当然その間、送金も入金もできません(銀行の言う通り2カ月後の予約だったら、と考えるとゾッとしました。)皆様が支店変更手続きをする場合は事前に手持ち資金を持ってからすることをお勧めします。

因みに弊所は中国現地法人設立業務を行っており、その業務の一環として銀行口座開設手続きのフォローをしていますが、新規の場合は資金の移動(資本金は別として)という部分が無いため、今回のような既に運営している銀行口座の変更より手間は掛かりません。

 

さて、開設予約日、各資料に記入・押印等の作業が終わり、銀行の開設担当者が上司の確認及び「格付け?」を取る段階になりました。我々が銀行の開設担当者と共に上司のいる場所に移りましたが、その女性上司は電話中で、かなりエキサイトしていました。開設担当者と一緒に3分ほど電話が終わるのを待ちました。上司が電話を切ったのを見て、開設担当者が間髪入れず、「外国法律事務所の格付けは?」と聞くと、回答は「リスクが高い!」。更に開設担当が「どれくらいか?」と聞き直すと回答は「一番高い!」。上司の理由は「①法律事務所は資産が無い。」「②外国の事務所は何時でも撤退できる。」とのこと。私は開設担当者に「何か我々に不利益はありますか?」と聞くと、「口座開設自体にはあまり関係ないが、今後融資を申し込んだときにこの格付けが参考になる。」と言われました。中国国内で銀行に融資を申し込む予定はないので構わないのですが、日本国内では法律事務所の銀行評価は高く、借りる必要のない時でも「融資しますよ。」と営業をかけてくるのとは大違いだな、と感じました。

 

今回の件で、「中国では『信用』に対する考え方が日本とは違うのだな」と感じると同時に、「これ以外にも様々な場面で考え方の違いが多々あるのだろう」と改めて感じました。中国で活動されている企業は既に実体験を通じて痛切に感じられ、対策も練っておられることでしょう。これから中国進出を考えている企業は、「中国には中国のやり方・考え方がある」ということを頭に入れておくべきです。

 

以  上