【第3回】TRADING CARD 原色日本法図鑑 日本法0002/特許法

 

弁護士法人BridgeRootsブリッジルーツ

弁護士  大 塚  陽 介

 

※本記事は亜州ビジネス2012924日第480号に掲載されたものに一部加筆したものです。


 解説:

特許法のコンセプト  特許制度は発明奨励のための法制度である。苦労を重ねて発明したのに簡単にパクられてしまっては単なる骨折り損であって、誰も発明などしなくなってしまう。だからといって公開せず秘密にしておくと、発明者自身もその発明で一儲けすることができないし、他人も発明の成果を利用できない。さらに、他人が知らずに同じ物の発明に費用と労力を注入してしまうと、社会全体の無駄以外の何者でもない。そこで、特許法は、原則として出願から20年(例外あり)、発明者等に一定期間独占的に利用できる権利を与えてライセンス料なんかもGETできるようにし、その代償として発明を公開させることにした。リンカーン曰く、「特許制度は、天才の火に利益という油を注いだ」。昔の人は常に良いことを言う。

 

知的財産権  特許権はいわゆる“知的財産”の典型例であるが、このほかにも、実用新案権(実用新案法)とか、意匠権(意匠法)、商標権(商標法)、育成者権(種苗法)、回路配置利用権(半導体集積回路保護法)、著作権(著作権法)、営業秘密(不正競争防止法)などがある。実用新案は発明というほど高度でない工夫を、意匠は優れたデザインを、商標は商品等のネーミングを、それぞれ保護する制度だ。なお、文化の発展を企図する著作権に対し、産業の発展を企図する特許権・実用新案権・意匠権・商標権などを総称して「産業財産権」(古くは「工業所有権」)と呼ぶことがあるが、定義は曖昧でよく分からん。

 

不安定な権利  特許権とは、「国が、発明者のモチベーション向上のために、発明を行った人間に対して、特別に認めてあげる権利」だ。ポイントは2つ。

特許権のポイント1つ目。所有権みたいに「国がわざわざ制度化してあげなくても、もともと私人間にあったっぽい権利」ではなく、「国がわざわざ制度化してくれたが故に、この世に出現することのできた権利」だということ。そのため、個人的意見だが、特許権は権利自体がイマイチぼんやりしていて不安定な気がする。だから、他人から「特許侵害だぞ、コラァ!」などと言われても、まずは本当に有効な特許があるのかを確認すべきだ。逆に、自分が攻撃する場合でも、相手から「君、その特許無効だから」などと言われて「そんなバカなことあるかい!」などと言い放ってたら本当に無効と判断されてしまった、なんてこともあるので要注意。

 

PCT国際出願  さておき、このように国家が自国の産業振興のために政策的に創出する権利であるから、日本の特許権と中国の特許権と韓国の特許権は別々の権利となる。日本の特許権は中国では行使できない。中国で特許をパクってる者に対して特許権侵害を主張するなら、中国で特許を取っておかないといけない(逆もまた然り)。PCT国際出願というのがあり、「ウチの特許は全世界に通用する国際特許じゃい!」と豪語する痛い社長さんを見かけるが、これをやれば自動的に全世界の特許権を取得できるというものではない。PCT条約の締約国での出願手続きを日本で一括してできるというだけのもので、実際に各国の特許権として登録するためには、それぞれの国で登録手続きを行い登録費用を支払う必要がある。多数の国で実際に登録するとなると莫大な金がかかるため、よほどの大発明でもない限り全世界クラスの登録などやらないことがほとんどだ。

なお、特許権を譲渡するときは、どこの国の特許権を譲渡するのか明記しておかないとワケ分かんなくなる場合があるので注意していただきたい。

 

職務発明  特許権のポイント2つ目。発明は人間(自然人)のみが行うことができるということ。株式会社等の法人はあくまでも観念的な存在(人間の集まりに過ぎない)であって、実際にセコセコと発明作業を行うことはできないというのである。したがって、法人は特許法上の発明者になれない。そこで「職務発明」(特許法35条)という概念が登場してくる。青色発光ダイオード訴訟で有名になったアレだ。企業は、一定の要件を満たす場合、従業員の職務発明に対し「相当の対価」を支払えば「特許を受ける権利」を取り上げることができる。ただ、いくらなら「相当の対価」なのかは実際上さっぱり分からず、青色発光ダイオード訴訟でも、第1審では600億円だったのに控訴審では6億円程度と示唆されたとされている(和解で終わっているため高裁の最終判断は不明のまま)。結局、出たとこ勝負で社長さん泣かせであるが、それなりの事前対処策もあるのでファイト!

 

特許要件  さて、たまに「何でもかんでも特許出願!」というスタンスの話を耳にするが、実際に特許の登録に至るのは結構難しい。私は「発明はサシシセコ」と覚えているが、特許を受けるためには、①特許法上の「発明」(物の発明と方法の発明とがある)であること、②産業上の利用可能性、③新規性(未発表のものであること)、④進歩性(容易に考え出せるようなものでないこと)、⑤先願主義(先に発明した方ではなく、先に出願した方が勝ち)、⑥公益に反しないこと、との要件を全てクリアしなければならない。

 なお、①特許法上の「発明」とは「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」をいうとされるが(特許法21項)、これで理解できる人は天才か思い込みの激しい人物だけだ。簡単に説明すると、「自然法則を利用した」と言えるためには、単なる精神活動や人為的な取極め等ではダメだし、自然法則それ自体(運動方程式ma=fとか)でもダメだ。例えば、単なる宣伝方法や販売方法などは、仮に売上が大幅に伸びるものであっても、単に人の心理状態を利用しているに過ぎないし、ゲームのルールなどは楽しむための約束事に過ぎないとされることになる。また、「技術的思想」というのは要するに技術上のアイデアであり、美術とか技能・コツなどは排除される。頑固職人の熟練技には特許をくれないというわけだ。「創作」というのは単なる「発見」ではダメだということで、新種の生物を見つけただけでは特許は貰えない。

 

ビジネスモデル特許  したがって、「アルバイトだけで、安くて美味い牛丼をカウンター形式でスピーディーに提供できる店舗運営方法」といったビジネスモデルについては、自然法則を利用していないから、本来的に特許法上の「発明」にはならない。要するに、法は、「自然科学的な発明は保護してやるけど、経営的な事業手法のアイデアは別。事業手法については、企業間の公正な市場競争と自然淘汰に任せたほうが、社会全体の利益につながるもん。」というスタンスなのである。

 ところが、90年代後半頃、米国を発端に我が国の経済界でもビジネスモデル特許を認めるべき!との機運が高まって一大ブームとなり、現に特許登録が認められるようになった。もっとも、実際には、ソフトウェア関連発明の一環として認められているに過ぎず、純粋なビジネスモデルそのものが特許化されるわけじゃない。実務上の運用では、ソフトウェアと連携していないものは論外だし、サーバシステムかインターネットを利用していないものは撥ねられるみたい。

 とはいえ、(ビジネスモデル特許に限らず)登録できない特許は出願できない、というわけではない。実際、①特許出願中というプレミアが欲しいだけの出願(なんちゃって出願)、②ライバル企業に「ウチは特許出願してるんだからパクんなよ!」と威嚇するためだけの出願(威嚇出願)、③特許になるわけないと思いながらもライバル企業が同じものを出願して万が一認められちゃったらヤバいからとりあえず防御の意味でやっておく出願(防御出願)、といったものが非常に多い(括弧内はいずれもテキトーな造語)。

 

ハンドリング  このように、特許法をはじめとする知的財産法分野には独特で難解な問題が多く、弁護士でも対応にはホトホト苦労する。知的財産戦略法務は、非常に奥が深いのだ。企業さんにとっては、正直、信頼できる専門家の確保が一番重要かも知れない。もっとも、信頼できない専門家を見抜くためにも本稿程度の理解は持っておきたいものだ。

 特許法とは、そういう法律である。

 

本稿は、あくまでも一般的な法解釈の動向のご説明にとどまるものですので、いかなる意味においても、法的見解を表明し、あるいは法的助言や鑑定等のサービスをご提供するものではありません。