ブリッジルーツの日本・中国・韓国見聞録

【第6回】韓国で交通事故被害にあったら・・・
 

弁護士法人Bridge Rootsブリッジルーツ

弁護士 李   武 哲

 

※本記事は亜州ビジネス2012910日第470号に掲載されたものです。

 

1.韓国の交通事情

  「韓国の道路は戦場である。」

  韓国に行かれた経験のある方はよくご存じだと思いますが、韓国の交通事情は日本に比べて非常に悪い、と言わざるをえません。特に、バス、トラック、タクシー等の事業用車両の運転マナーは著しく悪く、無理な割り込みや車線変更、速度超過、信号無視などをよく目にします。

  統計上も、交通事故による人口当たりの死亡者数は、日本の優に2倍を超えており、事故件数のみならず、事故の重大性も看過できない状況にあります。

  その原因としては、都市部における交通渋滞の常態化や、片側4車線以上の広い道路が多くスピードを出しやすいことなどの構造的な要因に加え、せっかちな国民性が大きく影響しているものと思われます。

  ソウルの空の玄関口である仁川国際空港からの移動や、市内での移動に際しては、バスやタクシーが非常に廉価かつ利便性も高いので、利用頻度も増えがちだと思いますが、かような交通事故リスクについては常に留意が必要です。

  それでは、万が一、韓国で交通事故被害にあってしまった場合には、どのように損害を回復すればいいのでしょうか。

 

2.国際裁判管轄について

  第2回の記事でお伝えしたように、日本と韓国の制度は多くの分野でよく似通っており、損害保険制度についても同様です。すなわち、韓国においても、日本と同様に自賠責保険への加入が義務付けられており、多くのドライバーは自賠責保険に加えて任意保険にも加入しています。

  ただ、ドライバーの多くが損害保険に加入していて、損害賠償請求の実効性が担保されているとはいえ、過失割合の認定や損害額の算定に関し、当事者間の協議では解決に至らず、法的措置を取らざるを得ないケースは少なくありません。

  では、日本人が韓国国内で交通事故被害にあった場合に、日韓いずれの裁判所で訴訟を提起することになるのでしょうか。いわゆる国際裁判管轄についての検討が必要になります。

  国際裁判管轄について、民事訴訟法第条の3第号は、交通事故等の不法行為に関する訴えは、「不法行為があった地が日本国内にあるとき(外国で行われた加害行為の結果が日本国内で発生した場合において、日本国内におけるその結果の発生が通常予見することのできないものであったときを除く)」に、わが国に国際裁判管轄が認められると規定しています。 

  この「不法行為があった地」には、加害行為が行われた地(本件の場合、事故が発生した地:韓国)と結果が発生した地(本件の場合、被害者の住所地:日本)の双方が含まれるものとされております。

  したがって、結論としては、日韓いずれの裁判所でも訴訟提起は可能ということになりますが、当事者が2カ国にまたがるため、文書の翻訳等に多大なコストを要し、被害者の時間的・経済的負担は非常に大きなものとなります。

 

3.さいごに

  以上のように、韓国で交通事故被害にあった場合のリスクは決して小さなものではありません。万が一の場合には、自身が加入する保険を利用して速やかに損害の填補を受け、当該保険会社から加害者側に求償させるというのが、最も合理的な対応といえるでしょう。

  韓国での長期滞在を予定される方には、適切な保険加入を強くお勧めいたします。

 以 上