ブリッジルーツの日本・中国・韓国見聞録

【第5回】中国人の名義を借りて中国へ進出!?
 

弁護士法人Bridge Rootsブリッジルーツ

代表弁護士 橋 本 吉 文

 

※本記事は亜州ビジネス2012827日第460号に掲載されたものです。

 

1.ある日本食レストランの例

  中国人の個人消費が毎年飛躍的に伸びている背景もあり、近年サービス産業の中国進出が増加している。日本料理店を例にとれば、上海では既にその数は1000軒を超えている。「味千ラーメン」の大成功はつとに有名だが、3年前に福岡から上海に渡り、豚骨ラーメン屋で成功している20代の兄弟や、長崎・沖縄料理のお店を上海で8店舗経営し、最近ミャンマーにも日本料理店をオープンさせた長崎出身の知人等、私の身近な成功者も多い。

  一方、上海で数店舗の日本食レストランを経営し大繁盛していたが、会社の名義を中国人にしていたため、その中国人にすべてのお店を取られたという例もある。日本在住経験のある日本語が堪能な中国人から、「中国で日本食レストランをやれば必ず儲かる。日本人名義で経営すると当局から様々な嫌がらせをされる可能性があるので、私の名義でやりましょう!」等と言われ、利益配分等に関する協議書(匿名出資契約)を締結して中国人名義の会社を立ち上げるというパターンだ。

  また、外資には解放されていない業種を経営するために中国の会社や中国人の名義を借りる例もある。中国人と匿名出資契約を締結し、毎月名義借り料を支払い、実質的には日本人が経営するというパターンである。

  しかし、実質上はどうであれ、法律的には中国人の会社であり、日本人が「俺が出資したのだから俺の会社だ。」等と主張しても裁判では負ける可能性が高い。

 

2.外商投資企業紛争事件の審理における若干問題に関する規定(一)

  上記のように、中国の会社や中国人の名義を借りて会社経営をするという事案においてトラブルが多発していたため、司法判断基準を明確化する趣旨で、2010年8月5日、「外商投資企業紛争事件の審理における若干問題に関する規定(一)」が公布された。

  同規定では、「真実の出資者と名義上の出資者が締結した匿名出資契約は、強行法規に違反しない限り法的効力がある。当該契約に規定した利益分配方法等は法的拘束力がある。」とされている。ここで注意をしなければならないのは、「匿名出資契約が強行法規に違反しない限り」法的効力が認められるのであって、法律上外資に開放されていない業種を経営するために中国人名義を借りたような場合には、匿名出資契約は無効となる可能性が高い。

  また、同規定では、「名義上の株主が実際の投資者との間の契約を履行せず、これにより実際の投資者が契約の目的を実現できなくなった場合において、実際の投資者が契約の解除とともに、名義上の株主に対し違約責任の負担を請求したときは、裁判所はこれを支持しなければならない。」としている。

他方、「匿名出資契約が有効であるとしても、実質上の出資者が会社の財産支配権、運営管理権等の株主権を行使するよう要求してはならない。」とされ、原則として株主を実質上の出資者に変更する請求は認められない。

  このように、実際の投資者から名義上の株主に対する金銭的請求は可能だが、株主としての地位は原則として認められず、法的には中国人の会社とされる可能性が高い。中国の会社や中国人名義を借りて中国に進出する場合は、かかる重大なリスクが伴うことを認識しておかなければならない。

以  上